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プロサッカー選手・中村俊輔さん

 更衣室(こういしつ)にもどったら靴(くつ)がかくされていて、探すと電灯からぶら下がっていました。靴下が切りさかれて布きれになっていました。自分が体験したことです。

 Jリーグの横浜からイタリアのレッジーナに移籍(いせき)した4年前。古株(ふるかぶ)の選手たちが新人をからかう恒例(こうれい)のいたずらでした。いじめではありませんが、とても驚きました。落ち着いているふりをして周りを見ると、みんながぼくの反応をうかがっていました。

 子どものころのチームでは、くだらない理由のけんかがあったし、好き嫌いで分かれたグループもありました。でも試合になれば、みんなが力をあわせなければなりません。そんな環境(かんきょう)で育ったから深刻ないじめはなかった。いま、日本で起きていることを聞くと、自分はめぐまれていたと思います。

 イタリアでつらかった時期を乗り越えられたのは、自分だけの力ではありません。やさしくしてくれた人が近くにいました。チームドクターや用具係の人たち。話しかけてくるときは、体を寄せてきたり、肩を組んできたり。日本の常識(じょうしき)でいえば、少し気持ちが悪いくらい。でも遠慮(えんりょ)したり、警戒(けいかい)したりする気持ちがほぐれたのは、彼らがそうやって近づいてきてくれたからでした。

 周りにいじめられている人がいたら、あと一歩近くにいって「どうしたの」と聞いてあげたらどうでしょう。それでも心を開いてくれなかったら、あと10センチ近寄って肩に手をかけてみて。同じ言葉でも、もっと気持ちが伝わるはずです。

 あなたがいじめられているとしたら、思い出してもらいたい。ひとりでがんばらず、だれかに甘えていいんだよ。(朝日新聞2006年12月10日掲載)

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