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 温州ミカンの産地で知られる静岡県浜松市北区三ケ日地区で、3月から14件の不審火が発生している。被害に遭ったのはミカン農家ばかりで、細江署は連続放火の可能性もあるとみて調べている。農機具小屋やミカンの木が焼けており、生産に大きな打撃を受けたという農家は少なくない。

 「誰が火をつけただ……」。被害にあった三ケ日町只木の70代女性はため息をついた。

 7月26日午後10時15分ごろ、夫が所有する農機具小屋2棟から出火しているのが見つかり、計約85平方メートルが全焼した。国道から車が1台やっと通れるほどの細い山道を上ると、小屋の跡がある。あたり一面ミカン畑。街灯はほぼなく、夜は真っ暗だ。家畜の牛の気配がするだけで、昼間も人気はほとんどない。

 小屋の中には、トラック1台に農薬、ミカンの貯蔵箱、タンクなど、仕事に欠かせない道具の大半が入っていた。

 「こんな小屋が焼かれるとは思ってもいなかったので、保険もかけていなかった」。女性は声を震わせた。

 秋から収穫するミカンは小屋で数カ月間熟成し、甘みをつける。でないと出荷できないのだという。だが、保存するための小屋はもちろん、450個あった保存用の箱も焼けた。「貯蔵もできない。甘くないミカンは売れないよ……」

 他の家が所有するミカンの木も一部焼けてしまった。女性は火災後、近所を謝って回った。夫は、火事があってから、体調がすぐれない。

 三ケ日地区は耕地面積の8割以上がミカン畑で、農業人口の9割以上がミカンの栽培に携わる。年間生産量はおおよそ3万5千トンで、90億円の売り上げを誇る。全国でみればミカンの出荷量が40年前の4分の1まで減る中、三ケ日は豊作不作の波はあるが、40年前とほぼ同量を維持している。

 相次ぐ不審火で被害にあっているのは、地区の基幹産業のミカン農家だ。

 3月に被害にあった男性(65)は、焼けたミカンの木10本ほどを処分し、新たに苗を植え直した。市場に出せる実がつくまでには約10年かかるという。1本の木には年間80キロほどの実がなり、ミカンの売値は2万円ほど。10本焼けてしまえば被害額は年間20万円になる。「焼けた木は、25年くらい手間ひまかけて育ててきた。働き盛りだったのに……」。男性は肩を落とした。

 不審火対策は難しい。農機具小屋や倉庫の多くは家から少し離れた場所にあり、火が大きくなるまで気づかないことが多いという。「防犯カメラをつけることも考えたが、そもそも倉庫の周辺には電気が通ってない」。被害者の一人はこう話す。

 三ケ日町鵺代(ぬえしろ)でミカン農家を営む女性(55)は相次ぐ不審火を受け、倉庫内の高価な道具を家の敷地内に運びこんだ。それでも「怖くて夜も眠れない」。

 三ケ日地区自治会連合会長の鈴木義男さん(67)によると、年末の収穫シーズンにミカンが盗まれる被害はこれまでにあったが、相次ぐ不審火はここ数十年で一度もなかったという。

 「みんな震え上がっている。放火なら、早く犯人が見つかってほしい」(岩本翠)