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 カリブ海の米自治領プエルトリコが、財政破綻(はたん)に苦しんでいる。8月に債務が返せなくなり、「米国版ギリシャ」と不安視される状況だ。州でもなく独立国でもない「中ぶらりん」な立場が事態の悪化につながった、と島民は言う。小さな島の実情を記者が探った。

「経済的には途上国なのに」

 青い海とヤシの木。リゾート地と見まがう首都サンフアンの広場にプエルトリコ自治領の議事堂は立つ。目の前に掲げられていたのは、「ノーモア・タックス(もう税金はいやだ)」と書かれた横断幕だった。

 座り込みを続けていた労働組合員のディオニシオ・シントロンさん(52)は、国家ではなく自治領であることが現在の苦境をもたらした、と言う。

 「米国の内側でも外側でもない。中ぶらりんだから打つ手がないんだ」

 税収減にもかかわらず、手厚い社会福祉政策を続けたことが危機の原因とされる。一方で、危機の陰に米国の姿が見え隠れする。

 マクドナルド、ウォルマート……。島内には米本土の企業の看板が目につく。競争に負けた地元の小売業は衰退した。一等地にも営業していないガソリンスタンドやシャッターが閉まったビルが目立つ。

 周辺のカリブ諸国に比べて割高な米国の最低賃金が適用されるため、輸出競争力も弱い。雇用者数は10年前から2割減った。

 2005年から4年間、自治政府トップの知事を務めたアニバル・アセベドビラさん(53)によると、さらに米国の政策変更が痛手になった。プエルトリコでは企業への米連邦税が免除されていたため、多くの米企業が製造拠点を作った。06年にその優遇が廃止された。「投資を呼び込む道具を失った後も、成長を見込んで借金を重ねた」

 元知事は自らの責任を認めつつ、「米国も責めを負うべきだ」と言う。

 「経済的には途上国なのに、世界一の経済大国の規制や法律に従わなければならない。競争に勝てるはずがない」

本土に憧れ、人口流出

 米国だが米国ではない。それが、自治領であるプエルトリコの立場だ。

 19世紀末の米国とスペインの戦争の結果、米国領になった。1952年に自治権を得た。住民は米国籍だが、連邦所得税の納税義務も米大統領選の投票権もない。五輪には独自の代表チームを送る。多くの島民はスペイン語しか話さない。

 3年前、「州への昇格」と「独立」のどちらを支持するかを問う住民投票があった。米国の51番目の州になることを支持する人が多数派だった。

 精神的には独立を願うが、米国籍を失うことは恐れる。それが平均的なプエルトリコ人の胸の内だ――。プエルトリコ・インターアメリカン大学法学部のフリオ・マルドナード教授(50)はそう考える。

 プエルトリコ大学教授で、独立を目指す市民運動の共同代表も務めるフリオ・ペレスさん(64)は、米本土への「人口流出」を懸念する。

 スポーツで米国人選手を負かすと大喜びする半面、若者は米本土に憧れる。2010年の国勢調査では、本土に住むプエルトリコ人が400万人を超え、島の人口を抜いた。失業率の上昇で、米軍への志願者も増えている。

 「普段は意識しにくいが、実際は米国の植民地。それがプエルトリコの現実」。経済危機を機に米本土との一体化が進むのか、自立の機運が高まるのか。ペレスさんも見通せない。

基地の傷痕、沖縄から視察

 プエルトリコの中に、さらに「見捨てられた島」がある。サンフアンから軽飛行機で東に30分、サンゴ礁に囲まれたビエケス島だ。

 11年前まで、島の7割が米海軍基地だった。実弾演習が行われ、島民は限られた地域で生活していた。

 99年、米軍機の誤爆で市民が犠牲になり、反対運動が激化。米国は基地の撤退を決断し、2004年までに閉鎖された。

 「米国もプエルトリコ政府も、その後何ら手を打っていない」。島のラジオDJ、ロバート・ラビンさん(61)は嘆く。経済危機は離島ほど厳しいという。

 基地の後遺症も色濃い。島の周囲の海には不発弾が沈み、山には爆弾による穴がクレーターのように残る。環境汚染も放置され、健康被害が懸念される。

 同様に米軍基地を抱える沖縄から、視察と交流のために県民らが島を訪れたことがあるという。「沖縄の苦境はビエケス島に似ている」とラビンさんは言う。「沖縄の基地を放置している日本は、まるでプエルトリコじゃないか」(サンフアン=真鍋弘樹

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 《プエルトリコの財政破綻》 経済低迷から財政危機に陥っていたプエルトリコのガルシア知事は6月、「約720億ドル(約8・6兆円)に上る公的債務を返せない」と表明。8月3日には借金の一部しか返済できず、事実上のデフォルト(債務不履行)となった。

 債務額は、同様に財政破綻したデトロイト市を上回る。また自治領は、連邦破産法による債務再編は認められていない。高利回りや税制優遇を理由に「プエルトリコ債」を大量保有する米投資ファンドなどに損失が広がって金融不安につながる恐れが指摘された。

 9月には一部の債務削減で投資家と合意したものの、米国や世界の経済を揺るがす金融危機の引き金となる可能性も否定できず、「米国版ギリシャ」と呼ばれている。