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 北関東を中心とした記録的な大雨は、各地の農作物や観光地にも大きな爪あとを残した。鬼怒川沿いの梨畑や水田は濁流にのみ込まれ、国内有数の温泉地・鬼怒川温泉では、川沿いのホテルで施設が崩れ落ちた。

 南北に流れる鬼怒川上流の渓谷沿いに、温泉旅館やホテルが並ぶ栃木県日光市の鬼怒川温泉。「鬼怒川プラザホテル」では10日、露天風呂などが入った施設が崩壊した。

 隣のホテルの従業員は10日午前7時ごろ、「ドーン」という崖崩れのような大きな音を聞いた。施設は、勢いを増す濁流に流されるように傾いていったという。鬼怒川プラザホテルは全館が断水。約230人の宿泊客に状況を伝える館内放送が流れた。藤原敏明販売部長は「11日の予約客にはキャンセルをお願いしている」と話した。

 近くの鬼怒川温泉ホテルでは10日、約350人の予約があったが半分ほどがキャンセルされた。前夜からの宿泊客のうち、交通事情で帰宅できなかった客には無償で泊まってもらったという。

 「いろは坂には行けるのか」「鬼怒川観光はできるのか」。10日朝から日光市観光協会には問い合わせの電話が相次いだ。市内の温泉地では、湯西川温泉に通じる県道が崩落し、一時、400人を超える宿泊客らが足止めされた。また、川治温泉に通じる道路も陥没した。一部の旅館やホテルでは浸水や停電、電話がつながらなくなる被害が出ているという。塩谷弘志事務局長(62)は「温泉地に通じる道路がどれだけ早く復旧するかで影響が変わる。5連休のシルバーウィーク前には復旧できることを期待している」と話す。

 日光市の担当者は「観光へのダメージはそれほどない。首都圏の人に日光は大変だと思われてしまっていることの方が影響してしまうかもしれない」と心配している。

 茨城県下妻市の鬼怒川左岸にある人気施設「ビアスパークしもつま」の一部も水没。市によると、鬼怒川からあふれ出た水が流れ込み、バーベキュー施設や農産物直売所の1階、農産物を栽培しているハウスなどが水没し、駐車場に避難した数台の乗用車も水没した。関係者は「再開のめどは立たない。収穫の秋、体験農園などみなさんが楽しみにしている時期だけに、残念です」と話す。

 県観光物産課によると、同県茨城町の二つのキャンプ施設が土日の予約客に断りを入れたほか、同県常陸大宮市の温泉施設「四季彩館」も冠水などの影響で臨時休業。同県つくば市の筑波山ケーブルカーが運休した。団体客や宿泊施設の動向などについては確認できなかったといい、小泉元伸課長は「正直、被害がどのように広がっていくかわからない。まずは宿泊施設や交通関係の状況を把握し、何ができるか検討していきたい」と話した。

水田「収穫期なのに」

 茨城県八千代町の鬼怒川河川敷に広がる畑は、濁流にのみ込まれた。

 同町野爪では、上流から流されて雑木林にからまったとみられる軽飛行機を眺めていた男性たちがつぶやいた。「町特産のネギ、大豆、ソバ……。畑はみんな川にもって行かれた」

 夫と梨農家を営む女性(61)は、機体近くの濁流を指さしながら、「あの一帯が梨畑だったんです」。梨の木のこずえがわずかに見えた。約60アールに400本ほどの木を育て、「豊水」の収穫を1日に始めたばかり。「まだ半分ほど残っていたと思います。昨日もお父さんと夕方まで収穫した。一つでも多くもいでやればよかった……」

 約400本のうち、半分ほどあった20年の「働き盛りの木」の大半が流された。「これからという若い木が……。本当に悔しい」

 茨城の梨の収穫量は全国2位。3位の栃木県と合わせると、昨年は4万8800トンで全国の約2割を占めた。JA常総ひかり(下妻市)の担当者は「被害状況はわからないが、強い雨で落ちることもあるかもしれない」と心配する。

 茨城県常総市内で決壊した鬼怒川沿い一帯には、水田が広がる。JA常総ひかりの担当者は「泥水につかってしまった田んぼは収穫が難しいかもしれない。本格的な収穫シーズンに入るところだったのに……」と話す。

 例年の収穫は9月上旬に始まるが、今年は夏の暑さで生育が早く、8月末から収穫を始めた農家もあった。だが、最近の長雨の影響で収穫できない日が多く、決壊した一帯では8割以上の田んぼで収穫が始まっていなかったという。

 農水省の調査では、茨城県の米の収穫量は40万9400トン(2014年)で、全国5位。常総市の米の収穫量は県内市町村別で5位だ。同市を含む県西部を流れる鬼怒川の両岸は水田地帯が続き、コシヒカリの生産が多い。これまでの長雨の影響で米粒が割れる障害も多く起きており、「今年の収穫がどうなるのか心配です」とJAの担当者。

 栃木県内でも各地の水田で浸水したり、稲が倒れたりするなど15市町で被害が出た。JAなすの(那須塩原市)によると、箒(ほうき)川沿いの地区では堤防が決壊し、120ヘクタールが浸水。うち2ヘクタールは土砂が流入し収穫ができない状態だという。担当者は「水をかぶっていれば乾いても穂が発芽して品質が悪くなる」と話す。

 一方、下野市など6市町で県特産のイチゴに被害が出た。県はイチゴの生産量日本一。主力品種の「とちおとめ」は年約2万トンを出荷している。同市のJAかみつが(鹿沼市)によると、ビニールハウスが倒壊したり、ハウス内に浸水して苗が流されたりした。JA担当者は「ちょうど今、定植時期を迎えている。1年間の収穫にかかわる。かつて経験したことがない深刻な被害だ」と話した。