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鬼怒川の堤防決壊

 堤防上に立って鬼怒川の水位を見ていたら、足元のアスファルトが目の前でみるみる割れ始めた。

 「やばい!」。茨城県常総市三坂町のタクシー運転手坂井正雄さん(64)は川に背を向けて駆け下り、100メートルほど先の自宅へ急いだ。

 自宅の隣にある畑の様子を確認し始めた時、流れてきた水にのまれた。近くの電柱に必死につかまるが、水位は増し、すぐに腰あたりまで達した。

 気づくと、妻(60)がいるはずの木造2階建ての自宅は流され、隣の家にぶつかっていた。周囲の家も、次々に流されていく。

 数メートル先の車の屋根の上には、長男(25)が避難していた。「大丈夫かーっ。こっちに来い」。長男は「大丈夫」と返してきたが、上流から来た流木のようなものが車にぶつかった瞬間、あっという間に車ごと流された。助けようにも、水の流れが強く、一歩も動けない。「俺ももうダメか」と思いながら、流された時につかまるための流木を足元に挟んでおいた。

 流れてくるゴミや木を払いのけていると手のひらが切れ、血がにじんだ。すねには流木が何度もぶつかり、無数の切り傷ができたが、痛みを感じない。上空をヘリが舞うようになると、何度も何度も手を振った。午後3時過ぎに、ようやく自衛隊のヘリに救出された。

 避難場所の市内の体育館では、自宅ごと流されたはずの妻が先に救助されていた。長男も救助されてつくば市内の病院にいることを、駆けつけた兄から伝えられた。2人の無事を知った坂井さんは「良かった」と目をうるませた。(遠藤雄司)