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 企業が働き手に払わなければならない最低賃金(時給)がこの秋、16~20円上がります。政府の審議会が示した目安をもとに、各都道府県が決めました。ここ10年余で最大の上げ幅に政府は胸をはります。中小企業の経営者はどう思っているのでしょう。50人に聞きました。

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 毎回ご協力いただいている50社(順不同)【北海道】ナオエ石油、ダテハキ【東北】高田自動車学校、八木澤商店、蔵ホテル一関、シェルター、八葉水産、丸平木材、ヴィ・クルー、西条タクシーグループ、マルベリィ、北洋舎クリーニング、キクチ【関東】中里スプリング製作所、日本電鍍工業、永瀬留十郎工場、浜野製作所、コビーアンドアソシエイツ、古田土会計、博水社、吉村、栄鋳造所、大橋製作所、日進工業、ミナロ、大功、ウェルネスダイニング、安田塗装【中部】給材、エイベックス、キタガワ工芸、ユーズネット、麻布【近畿】千房、ロマンライフ、山田製作所、枚岡合金工具、新日本テック、進和建設工業、カワキタ、梅南鋼材、三協製作所、日本グリーンパックス【中国】玉野縫製、中村ブレイス、エブリイ【九州】ヒューマンライフ、お掃除でつくるやさしい未来、プレースホーム、阿蘇プラザホテル

〈Yes〉塗装業「麻布」社長・池田大平さん(51)

 働いた分、いや、それ以上に従業員に賃金を支払う。それは経営者の義務だと考えています。

 でも、残念なことですが、従業員に犠牲を強いる経営者がいます。人生を棒にふりかねないほど酷使されている人を救うには、国が最低賃金を上げていくしかないと思います。

 もっとも、最低賃金を上げたからといって、国や政治家は「賃金を上げた」と誇ることはできないと思います。これは、生存権にかかわる当然のことなんですから。

 わたしは、教師の横暴が我慢できずに高校を退学し、ペンキの世界に入りました。そして、36歳で独立しました。

 ひどい労働条件で働く人たちを、建築現場などで見てきました。だから、起業してからいちばん考えてきたことは、従業員を幸せにすることです。賃上げもしてきました。

 そのたびに、日本人のカッコイイ姿を見てきました。経営者が何も言わなくても、それまで以上にがんばってくれるんです。

 心配がひとつあります。最低賃金が上がってしまったので、仕方ないから給料は上げてやる。そのぶん、仕事をめちゃくちゃ厳しくしてやる、と考える経営者が出てくるかもしれない、ということです。でも、ネットによる内部告発の時代ですよ。そう考えている経営者がいるとしたら、あなた、やめたほうがいいです。私だけの杞憂(きゆう)で終わると信じていますが。(本社・愛知県春日井市、従業員20人)

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 〈Yes〉最低賃金が上がるというニュースで、すこしでも消費者心理が明るくなれば。いまの日本には、そんなことも必要な気がする。(サービス業・50代)

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 〈Yes〉 アベノミクスで大企業と中小企業の業績の差が広がり、賃金格差も広がっている。引き上げはやむをえない。(サービス業・50代)

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 〈Yes〉 政府がインフレに誘導している以上、賃金を上げるしかない。雇う人材を厳選し、密度の濃い仕事をしてもらって吸収する。(サービス業・70代)

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 〈Yes〉 日用品や食料品の値上げが生活を直撃している。最低賃金は上げなくてはならない。経営は厳しくなるかもしれないが、企業の宝である従業員のためだ。(サービス業・40代)

〈No〉金属加工業「浜野製作所」社長・浜野慶一さん(52)

 東京スカイツリーのおひざもとにある町工場の2代目です。頼まれれば一品からでもつくる、をモットーにして、無人深海探査機「江戸っ子1号」などのプロジェクトにも参加しています。

 「親がちっぽけな町工場で働いているから私立大に行けない」と言わせてなるものかと、ベースアップに努めてきました。

 賃上げできるのは経営が堅調だからです。でも、最低賃金の引き上げは、業績のよしあしに関係なく、すべての会社が国家の命令に従え、ということですよね。しかも、国の円安政策に苦しんでいようとも、です。苦しんでいる会社は、存在意義が失われていきます。

 個別企業の事情も知らないのに、国や都道府県が十把一絡げに縛るんですか? わたしには、違和感があります。

 中小企業の勉強会や会合に参加しているので、全国の多くの経営者を知っています。みんな、自分のことより従業員の賃金を上げたいと思っています。国に決めてもらうまでもありません。

 中小企業は、地元とともにあります。その街に経営者がいて、従業員もいて、サービスや製品を買ってくださるお客様もいます。賃金がひどく安い会社のうわさは、街中に広がり、だれも相手にしなくなります。

 最低賃金を国が決めなくても、相応な水準になると思うのですが、楽観しすぎでしょうか。(本社・東京都墨田区、従業員36人)

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 〈No〉最低賃金の引き上げで企業の体力が奪われれば、従業員はリストラに追い込まれ働く場を失う。そうなれば、いま以上の格差社会になりかねない。(サービス業・40代)

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 〈No〉 うわべだけの景気対策しかしていないのに、最低賃金の引き上げを強制している。中小企業支援も進めるべきだ。(製造業・40代)

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 〈No〉 大企業からのコスト削減要求は強く、円安政策で原材料などの仕入れコストが上がった。最低賃金の引き上げまで加われば、中小企業は破滅する。(製造業・40代)

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 〈No〉 大企業と違い、中小企業の先行きには不透明感が強い。そんな中で最低賃金を上げれば、人材採用に慎重になる。経済成長にマイナスの影響を与えかねない。(サービス業・40代)

中島隆の現場で考える

 最低賃金の引き上げには反対が多いだろう、と思っていました。わたしの不明を恥じます。50社のうち31社が賛成でした。従業員を大切にする心、景気のためならという使命感に頭が下がります。

 反対するみなさんの思いを知りたくて、現場にいきました。賃上げをしたくないと言っているのでは、ありませんでした。どこまで国の政策につき合わなくてはならないのか。そんな怒りにも似た思いを数多く聞きました。

 円安と株高で大企業をうるおしてきたアベノミクス。中小企業がその恩恵を受けているとは言いがたいのが現実です。さらに、ことしの春闘では、政府の「賃上げ大号令」に多くの中小企業が応じました。

 そして、この秋の最低賃金引き上げです。全国平均は前年比18円増の798円。4年続けて大きく増えました。ある経営者は、吐き出しました。「利益が出ているなら言われなくても賃上げする。国策として一方的に最低賃金を上げるやり方は、大企業が一方的に値引きを通告してくるようなもの。気分が悪い」

 でも、きっと政治家や官僚は、こんなふうに言うのでしょう。「賃金が上がるので消費が増え、景気の好循環がより確かなものになる」と。本当でしょうか。(中小企業担当編集委員)

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