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ユリコ・ケリーさん(1933年生まれ)

 今年4~5月、米国のニューヨークであった核不拡散条約(NPT)再検討会議の取材のため、米国で取材をした。その帰途、ニューヨークがある東海岸から西海岸にも立ち寄った。向かった先の一つは、メキシコ国境に近いサンディエゴだ。

 青空の下、住宅街を歩いた。めざしたのはユリコ・ケリーさん(82)の住む家だ。

 ケリーさんは長崎市出身の在米被爆者。被爆後、家族を支えるために長崎を離れた。行き着いたのがサンディエゴと同じ海軍の町、佐世保。そこで出会った米兵の夫と結婚し、米国に渡ることになった。戦後、米国の軍人と結婚した日本人女性たちは「戦争花嫁」とも言われた。その数は数万人に上ると言われている。

 ケリーさんは遠い故郷から来た私を笑顔で出迎え、日本語と英語混じりで戦争に影響された人生を語ってくれた。

 ケリーさんは長崎市北部の滑石で育った。旧姓は「登立」。西浦上国民学校(現・長崎市立西浦上小学校)に通った。学校の横には教員を養成する師範学校があり、学生が教育実習に来ていたことは覚えている。だが、学校の思い出はあまりない。

 「遊ぶ暇なんかなかった」。父は出征し、家にいなかった。戦争で食べ物がない頃で、ケリーさんは10歳くらいから買い出しに行かされた。汽車に乗って諫早や大村へ行き、農家を訪ねて回った。買い出しと言っても、物々交換だ。母の着物などを持って行った。白米と交換できればうれしかったが、たいていは芋や麦だった。断られることも多く、少女のケリーさんにはつらすぎた。「みじめだった。あんな経験をすると、心が壊れるよ」。食料は不足し、カボチャのつるも食べた。「泥棒してでも食べたいという気になったこともある」と語る。

 原爆に遭ったのも、そんな買い出しに行く途中のことだった。

 1945年8月9日、ケリーさんはこの日も国鉄の列車に乗り、買い出しに向かっていた。長与村(現・長与町)のトンネルの前だった記憶がある。対向列車を待っているときに、爆風が襲い、窓ガラスが割れた。

 列車はそこで止まった。ケリーさんは滑石の自宅に戻ろうと思ったが、どっちに行けば良いか、わからなかった。ただ、大人たちについて行きさえすれば何とかなると思い、無我夢中で歩いた。

 「長与から空は真っ赤っかだった」という。大人たちが「変なものが落ちた」とぼそぼそ話しているのが聞こえた。「道ノ尾から先には行けない」「道ノ尾は大丈夫」という話も聞いた。道ノ尾駅に近い滑石にいる母たちは無事だろうと思った。途中、やけどをした人たちも見た。「本当にかわいそうだった。子どもながらにそう思った」

 夏が来ると当時のことを思い出すという。「すごい長い旅だった」と語る。

 戦後も、ケリーさんは西浦上国民学校に通った。学校はぺしゃんこになっていた。当時のことは、後片付けをさせられた記憶しかない。「とにかく労働をした」

 家庭でも、ケリーさんは働き手だった。12歳下の弟のほか、戦後は妹らも増えた。一番上だったケリーさんは、家族を支えるため、国民学校の高等科を卒業した後、現在の北九州市の門司に女中奉公に出た。本当は女学校に行きたかったが、あきらめた。「人生は生まれた時に決まってんだ、と思うよね」

 子守などをして働いたが、給料は「1カ月に少ししかもらえなかった」といい、仕送りもできなかった。炊事場での仕事もした。「門司の水は冷たかった」と思い出す。

 ケリーさんは1、2年ほど門司で働いたようだ。そんな時、「佐世保に行けば、おぜぜ(お金)になる」という話を聞いた。米兵相手の仕事があって、給料がいいという。ケリーさんは、佐世保へと向かった。怖くはなかった。

 今も米海軍が基地を置く佐世保。戦後直後から米軍が駐留し、50年に朝鮮戦争が始まると特需にわき、外国人バーや外国人向けの土産物屋が次々とできた。

 ケリーさんが海軍に所属していた夫のビルさんと出会ったのは、そんなバーに勤めている時だった。

 ビルさんは客として毎日、決まった時間に来ていた。いつもビールを飲んでは帰っていった。「誰かを待っているの?」と尋ねると、米国から来ることになっている恋人を待っているという。だが、待てども待てども彼女は来ない。1カ月ほどたったある日、ケリーさんは思い切って、声をかけた。

 「How about you and I go movies(一緒に映画に行かない)?」

 ケリーさんが19歳くらいの時…

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