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第3章:5

 気がついたら、乗り過ごしていた。

 さいたま地裁からの帰り道。裁判員を務めていた佐藤明子さん(50代、仮名)は、電車に乗ったまま、自宅近くの最寄り駅を通過していた。

 2012年2月21日のことだ。裁判所を出ると、耐えに耐えてきた疲れが一気に噴き出してきた。

 この日は、2人を殺害した被告の男性に対する量刑を評決した。3人の裁判官と佐藤さんら6人の裁判員からなる裁判体が出した結論は、「死刑」だった。

 評議室は、重苦しい空気に包まれていた。評決後はだれも口を開こうとしなかった。

 もともとは翌22日も評議の予定が入っていたが、結論が出たために休みになった。だが、佐藤さんは、この日に自分が何をしていたのか、全く覚えていない。

 23日は当初から休みだった。パートの仕事を入れていたが、失念していた。朝、気がついて飛んで行った。だが、どんな仕事をしたかは記憶にない。

 評決してから判決公判までの2日間は、何をしても上の空。心はどこか遠いところにいた。

 その日は、地元紙の朝刊で「明日、判決」という記事が出ていた。

 「自分たちがかかわったことが明日決まるんだ」。なんとも落ち着かない気分になった。夫も、職場の上司も、新聞を読んで翌日が判決であることを知っていただろうが、何も言わなかった。こちらからも、判決のことは触れなかった。内容が重いだけに、巻き込みたくない、という気持ちが働いた。

 さいたま地裁に通い始めて40…

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