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土井崇司の目

 日本のFWはしんどかったと思う。米国に差し込まれる場面も多かった。それでも、トータルでゲインラインの争いに勝てたのは、日米の攻撃の形に明確な違いがあったからだ。

 米国は、ボール保持者を頂点に「三角形」のサポート態勢を取っていた。前への推進力はあるが、突っ込む人間を特定できるため、防御の的は絞りやすい。逆に日本は常に「デコイ」(おとり)の走者を使い、複数にタックルされない工夫をしていた。その結果、何度も1対1の状況を生み、ジワジワと前進することができた。

 この戦術は、うまく防御されるとターンオーバーされやすいが、最初に小野か立川を経由する形だったから機能した。特に小野は素晴らしい。普通の司令塔はパスやキックが中心だが、小野は果敢に防御の隙間を突いた。防御は簡単に彼から外に(タックル対象を)ずらせなかった。後半に小野が退場すると、日本はSHからの単純な攻撃になった。いかに試合を左右する存在だったかが分かる。

 また、米国の攻撃は意図的でなかった。三角形の形で前に出ても、球出しが遅いから怖さがない。日本は4年間、SHを中心とした9シェイプ(複数の走者が陣形を作って走り込み、防御の的を絞らせない戦術)を磨いてきた。この戦術の徹底は、寝ている人数を減らし、先に陣形をセットできる利点も生んだ。3~4メートルのゲインを繰り返し、米国のペナルティーを誘った。日本の地道な攻撃スタイルの勝利だった。

 米国には2本のトライを許した。ゴール前の強力なFWラッシュで防御が内側に寄り、外の人数が足りなくなった。あの失点は、仕方がない部分がある。

 ただ、日本は中盤付近のFWとバックスを混ぜた攻撃をほぼ封じることができた。特によかったのはWTB松島。防御ラインから約2メートル後ろに下がった位置から、上がるか、ずれるかの判断が的確で、速く、強く対応した。米国の俊足WTBヌグウェンヤを自由に走らせなかった。素晴らしい働きだった。

 長く学生ラグビーに関わってきた人間として、今後の日本ラグビーの育成について申し上げたい。サッカーは中学生から有望な選手を各地で集め、育成を進めている。ラグビーも年2、3回、連休の時に体格の大きい子やセンスのある子を集めて練習するが、残念ながら指導者が「大きいね」「うまいね」と褒めるだけで終わることが多い。

 大阪・東海大仰星高の監督時代、福岡での国際大会で英国のチームから大型SOの山中(現・神戸製鋼)に「英国に来ないか」と誘いがあった。その時、驚いたのは「大学にも行かせる。人として成長させ、ラグビーも成長させる」という口説き文句だった。結果として断ったが、そんな取り組みは日本にない。

 学生の育成で重要なのは、まずラグビーとはどんな構造で試合が組み立てられているかを知ることだ。その理解度を上げないと、試合中に彼我の力関係を判断できない。優れた運動神経があっても、日本の中高生の多くは、その水準が低すぎる。そこが国際舞台での大きな差となっている。

 並行して、勉強に取り組む姿勢、礼儀やマナーなどを含んだ「真のエリート」育成を進めていく。そうした指針を、日本協会が推進すべきではないか。

 ラグビーを理解する指導者の少なさも問題だ。しかし、エディさんだって、日本代表を指揮しながら海外から常に新しい指導法を勉強していたと聞く。あのエディが、今も学んでいるのだ。我々にできることはもっとあると思う。

     ◇

 どい・たかし 東海大テクニカルアドバイザー。東海大仰星高を全国屈指の強豪に育て、多くの日本代表を生み出す名伯楽として知られる。近著に「もっとも新しいラグビーの教科書」(ベースボール・マガジン社)。56歳。

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