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 配偶者やパートナーによる暴力(DV)の被害の訴えは年々増え続けています。9月に生活面で連載した「DV防止法15年」には多くの反響が寄せられました。その被害、加害の声を紹介しながら、何が起きているのか、どんな課題があるのか、改めて考えました。

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●妻に精神的DVをふるっていた時期があります。自分の考えは正しく、自分の言う通りに動けば妻にとってもメリットがある。なぜできないのかと、妻を怒鳴りました。職場で強いストレスを感じていた時期が特にひどかったです。職場のストレスが少なくなると、こうした言動も減りました。自分の言動を自由に決める権利を侵せば、それは人権侵害だと思います。体への暴力がなければDVにならないと誤解している人が多いのではないでしょうか。(九州地方・40代男性教員)

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●80代の母が今春、私のもとに逃げてきました。父は昔から生活費をほとんど入れず、意のままにならないと母を長時間怒り続け、体調を崩しても無理やり家事をさせました。母を高齢者施設に一時避難させ、法律事務所に同行して離婚へと動き出した途端、母は罪悪感から家に戻ってしまいました。両親のゆがんだ関係を見続けた私はパニック発作で通院中。振り回される周囲の心も傷つけられます。(九州地方・50代主婦)

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●夫のDVは結婚直後に始まりました。床にコーヒー豆が一粒落ちていたり、風呂場に髪の毛があったりというささいなことで30分ほど怒鳴られ、花瓶を投げられ、足で蹴られました。2人で楽しくドライブした後、家でお風呂に入っていると、いきなりリビングまで裸のまま引きずり出されました。殺されると思って服だけ着て逃げ、シェルターに保護されました。1カ月後、「夫には優しい面もある。変えられるかもしれない」と思い直して帰宅。その後、約1年間、努力をしましたが、夫は変わりませんでした。家を出る前日、怒りが爆発して本を床に投げたら、夫はその様子を撮影。周囲に動画を見せて「妻には精神疾患がある」と言い回り、離婚調停でも自分の暴力を全て否定。調停は終わりましたが、彼には今でも暴力の自覚がありません。(中国地方・40代女性)

罪の意識低い加害者

 戒能民江(かいのうたみえ)・お茶の水女子大名誉教授は「加害者が否定しても、被害者が恐怖を感じればDVだ」と指摘します。成人男女を対象にした内閣府の2014年度の調査では、「身体を傷つける可能性のある物でなぐる」は95%が「どんな場合でも暴力にあたる」と答えましたが、「平手で打つ」は67%、「なぐるふりをして、おどす」は58%、「大声でどなる」は34%です。

 冒頭の男性教員の妻は、子どものころから父親が母親に暴力をふるうのを見てきました。「父のひどすぎるDVを見てきた私は、夫の言動が本当にDVにあたるのかがわからない。夫が私を怒鳴っている時も反論せず聞いていました。反論しても火に油を注ぐだけだと学んでいたからです」と打ち明けました。

 戒能教授は「どなるという行為だけを切り取れば『どこにでもある』と思うかもしれない。でも、日常的に様々な暴力を受けているDVの被害者にとっては大きな恐怖になります」と話しています。

 中村正・立命館大教授によると、男性から女性へのDVが起きる背景には「妻は自分の所有物」という男女差別意識、「男がリードし、女は従うべきだ」といった性別による役割分担意識、正しいことのために暴力を使うのは「男らしい」という価値観がある場合が少なくないそうです。DVの加害者教育では、こうした意識を捨てることを目指します。

 法務省が、DV防止法の保護命令に違反した166人に自分の行為の認識を複数回答で聞き、08年にまとめたところ、「夫婦げんかに過ぎない」(43%)、「相手の方が悪い」(40%)、「DV行為はしていない」(13%)、「殴らないと分からない」(7%)と答えました。DVの加害者は罪の意識が低い傾向にあるとされます。中村教授はさらに、「加害者や被害者だけでなく、周りの人の意識も高める必要がある」とも話しています。

「男性の被害も取り上げて」

 男性が妻からDV被害を受けているという記事には、約40件の反響がありました。9割が同様に被害を受けた男性からで、「逆に加害者扱いされた」「相談する場がない」「心を病んだ」といった深刻な悩みもつづられていました。

●結婚後に始まった妻のモラルハラスメントは3年前の出産を境に激しくなりました。出産後2週間目とその半年後、「夫からDVを受けた」と警察に駆け込まれました。どんなに私が否定しても、警察や行政機関は聞く耳を持ちません。このため、何度も逆上して私を殴ったり子どもに物を投げたりする妻の行動を画像や音声で記録しました。それらを証拠として裁判所に提出し、子どもと定期的に会う「面会交流」を求めています。本当に苦しむ女性たちが救われてほしいと願っています。一方、男性の被害が取り上げられにくい現実に強い憤りを感じます。(九州地方・30代会社員)

 この会社員は、幼子を連れて実家に戻った妻から離婚を申し立てられました。子どもとのつながりの回復と、身の潔白を証明するため、調停に臨んでいます。

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●この春、「双極性感情障害」の妻が幼い子どもを連れ、自宅から姿を消しました。病状が悪化するとささいなことで怒りを抑えられず、暴言や暴力が出ることがあります。妻の主治医から、妻が行政機関に相談していたと教えられました。私はDVの加害者と扱われたようです。シェルターに一時保護された妻は希望して別の精神科へ入院しましたが、その2日後には症状が軽くなって私に「帰りたい」と連絡をくれました。妻の入院に伴い児童相談所に保護された子どもが戻ったのは約1カ月後。精神科医は私を支援してくれましたが、DVを担当する行政職員に障害の知識はなく配慮もありませんでした。保護を解除させる手続きは「DV加害者」とされる私が付き添って進めました。その時期、私は重いうつ状態に陥って自殺を考え、精神科に駆け込み、1カ月間休職しました。(東京都・30代団体職員)

 団体職員は最近、同じ病気の家族を抱える人たちの集まりに参加。そこで話し合われる「暴力につながらない対応」を参考にしています。

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●私が遠方の実家に月1回通うのは、70代の父の様子を見るためです。この半年、母は父の食事を作らず口もきかない。父が自分で買った食材を冷蔵庫に入れると「勝手に使うな!」と怒鳴られたそうです。私が行政のDV窓口に相談すると「高齢者問題は地域包括支援センターへ」と言われ、センターは「介護保険で解決できる話ではない」。両親は年金がもらえず、一切の金銭管理は母の役目です。貧しい老後を強いられた母からの“仕返し”とも受け取れ、父は我慢しています。頑固な母に意見すれば父はさらに追い込まれます。帰省の際、父にわずかな小遣いを渡すしかありません。(東海地方・40代主婦)

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 横浜市の行政書士・阿部マリさんは、2005年から男性専門の離婚相談に応じ、のべ8千件以上に対応してきました。弁護士につなぐほか、面会交流を仲介する団体を立ち上げています。「DVを受け続けることで感覚がまひし、外部との人間関係が絶たれ、報復を恐れて声を上げられなくなるのは、DV防止法が成立したころの女性を取り巻く状況と一緒です。男性のDV被害にようやく光が当てられるようになりました」と阿部さんは言います。

連載に反響

 DV防止法の成立から15年を迎えるにあたり、9月の生活面でDVの連載をしました。連載の(上)では増加している女性から男性へのDVを取りあげ、被害を受けても助けを求めにくく、行政の支援も行き届かない現状をお伝えしました。

 連載の(下)は、民間団体で取り組みが進むDVの加害者に対する教育の現状と課題です。さらに番外編として、親のDVを見るという「面前DV」で子どもに様々な悪影響が出る恐れがあることを報じました。

 全国の配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談は10万2963件(2014年度)、警察庁がまとめた被害の認知件数は5万9072件(14年)で、いずれも過去最多を記録しています。読者に意見を募ったところ、80人からメールや手紙、ファクスを頂きました。その大半が、ご自身の体験を踏まえて、DV対策の改善を提案する内容でした。

DV被害、少しでも減らすために

 DV防止法は“社会的弱者”とされた女性が、夫婦間の暴力にさらされる現実に立ち向かう武器として生まれ、改正が続いています。半面、生活費を稼いで家族を支えるのが当たり前という男性観は根強く、そこに縛られる男性自身の被害も広がっています。

 DV被害者の9割を占める女性ではなく、男性を連載で取り上げたことに「偏っている」というご意見もいただきました。一方、妻からDVを受けて自殺した男性の姉からの投書には「なぜ気づいてやれなかったのか」と激しい後悔の言葉があふれていました。増え続けるDV被害を少しでも減らすため、引き続き取材を進めます。(高橋美佐子)

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 内閣府の全国共通の相談電話(0570・0・55210)。

 最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。

◆高橋と長富由希子が担当しました。

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