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 大阪府知事選の告示が11月5日、大阪市長選の告示が11月8日に迫った。大阪はどこへ向かうのか。「現在地」と「未来」を探ります。

 大阪湾岸の大阪市此花(このはな)区。大阪維新の会代表の橋下徹市長は18日、演説会で叫んだ。「いちばん身近な自民党政治の失敗、オリンピックですよ。なんですか、あの舞洲(まいしま)、夢洲(ゆめしま)のペンペン草、人工島は。どんだけのお金をかけたのか」

 2001年7月。08年夏季五輪開催を目指した大阪市は、国際オリンピック委員会総会の投票で6票に終わり、立候補5都市の最下位と惨敗した。膨大な借金だけが残り、ヤミ退職金などの「職員厚遇問題」も噴出。市民を怒らせた。

 その後の市政は、歳出カットや人員削減など、内向きの行政改革に追われた。ところが来月22日投開票の大阪府知事と大阪市長のダブル選では、大阪維新と自民が掲げる公約にそろって、同じような巨大事業がずらりと並ぶ。惨敗の夏から14年。開発の季節は、再び訪れるのか。

三セクで巨額負債、破綻状態に

 大阪市民を落胆させた五輪招致での惨敗。運動を引っ張ったのは、1995年に市長に初当選した磯村隆文氏(故人)だった。東京一極集中が強まる中、「大阪再生には『国際集客都市』づくりや五輪招致が不可欠」と主張。横浜市と競り合い、97年に国内候補都市に選ばれた。

 国が東京圏と関西圏の「双眼型」の国土づくりに向け、空港や湾岸開発の旗を振り、大阪市も80~90年代、巨大開発を進めた。70年の大阪万博、90年の国際花と緑の博覧会。約20年ごとの大行事で景気を呼び込む成功体験の延長線上に、オリンピックはあった。99年の市長選は、五輪招致を訴えた磯村氏が、自民党など7党相乗りで再選した。

 だが、招致レースは01年、北京の勝利で終わる。大阪市は第三セクター方式で多くの施設をつくり、市債残高(借金)は5兆円を超えた。磯村氏は02年、財政非常事態を宣言し、翌年に引退した。03年11月の市長選は一転、破綻(はたん)状態の三セクなど「大型事業の是非」が争点になった。

 磯村氏の後継者の関淳一氏は市長就任あいさつで、財政健全化など「時代が要請する改革を着実に実行する」と宣言。ヤミ退職金やカラ残業など職員厚遇問題も発覚し、さらなる行政改革が求められた。元民放アナウンサーの平松邦夫氏は07年、63年から続いた助役出身者の市長就任を批判して当選。橋下徹氏は11年、府知事時代に大阪府・市の「二重行政」解消で対立した平松氏を激しく攻撃して市長に転じた。

市役所はスリム化、税収は減

 職員数はこの10年で約1万5千人減。政令指定市で最高だった職員給与も14年度は最下位の20位になった。外郭団体や天下りを大幅に減らし、「大阪ワールドトレードセンタービルディング」(WTC)など開発行政の負の遺産の処理も進めた。新規の投資は抑え、市債残高はピーク時から1兆円近く減って4兆5677億円に。「関氏以降の改革で、市は相当筋肉質になった」(市幹部)。

 市役所はスリム化したが、企業の流出で税収は減った。生活保護世帯は11万7375世帯(18人に1人)と全国市町村で最多。府の地方税歳入も06年度以降、愛知県や神奈川県に都道府県2位の座を譲った。

 そして橋下氏が「究極の行政改革」として打ち出したのが、市と役所を解体する大阪都構想だった。今年5月の住民投票は、賛成69万4844票と反対70万5585票というわずかな差で廃案に。その後の大阪の政治は、不思議な均衡状態にある。知事と大阪市長は大阪維新が、両議会は自民など「非維新勢力」が過半数を占める。

 11月のダブル選を前に、二股に分かれた権力が、大阪の将来像をどう示すかを迫られている。リニア中央新幹線の大阪同時開業に北陸新幹線の大阪延伸、関西空港へのアクセス改善、中央省庁移転……。大阪維新と自民の公約の多くは奇妙なほど重なる。「自民党が出しているマニフェスト、維新の公約とまったく同じ。違うところは三つ、四つ」。橋下氏も街頭でそう述べた。自民のベテラン国会議員は「大阪維新と我々のゴールはほぼ重なる。ただ、橋下氏がケンカばかり仕掛けてきて、不毛な対立が続いている」と漏らす。

 五輪招致に失敗してから、久しく表面化しなかった巨大開発への夢。市幹部は「『市民は行革論争に疲れている』と、政治家が捉えているのだろう」。国をどう動かすか。自民が強調するのは政権与党としての「国とのパイプ」。一方の橋下氏は新党結成で国への影響力を確保し、都構想に再挑戦する作戦に出た。

 いま、大阪維新は「副首都」を目指し、自民は「東西二極化」をうたう。5年後に五輪を開く東京とつながり、ナンバー2の地位を固めたい――。手段こそ違うが、目標は重なる。

 龍谷大の富野暉一郎(きいちろう)名誉教授(地方自治論)は「住民投票が終わり、双方行き詰まり感がある。イエスかノーかの選択で争わず、ともに妥協や連携をしながら最適解を出してほしい」と話す。ダブル選の後、対立は超えられるのだろうか。(野上英文