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 ダブル選の号砲が鳴った。5日告示の大阪府知事選。大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長(46)は政界引退前の「最後の戦い」と位置づけ、応援に立つ。8年前に橋下氏を政界に引き入れ、その後に対立を深めた自民党府連は「橋下政治の終結」を街頭で訴えた。

負けられぬ戦い、自ら戦略

 橋下氏は5日午前、大阪・難波に姿を見せた。現職で知事再選を目指す松井一郎氏(51)と入れ替わるようにマイクを握った。

 「8年前、自民党から共産党までなれ合いの政治だった。維新の政治と、どっちがましかってことです」

 2008年1月、自ら知事選に立候補し、自民党府連の選挙カーに乗って第一声を上げた場所だ。

 その後、自民党とはたもとを分かち、今回のダブル選で二つの首長ポストを激しく争う。知事候補に盟友の松井氏、大阪市長候補に側近の吉村洋文(ひろふみ)氏(40)を自ら指名。10年に設立した地域政党「大阪維新の会」のかじ取りをゆだねる。

 橋下氏は今年5月17日の住民投票で大阪都構想が廃案となったのを受け、その日のうちに「政治家は僕の人生で終了」と、12月の市長任期満了での政界引退を表明した。弁護士やタレント活動再開の準備を進め、政治色がつかぬよう、距離を置く考えも示していた。

 ただ、最近は「私人になってからの将来は約束する話ではない」と答える場面が増えた。先月末の国政新党「おおさか維新の会」の結党会見では「政策顧問に挑戦したい」とも述べた。

 背景には、党の顔だった自身の引退が、1敗もできぬダブル選や党勢へ悪影響を与えるとの分析がある。

 橋下氏はその「最後の戦い」の戦略を自ら練る。1日の演説では自民党が大阪市長選に擁立する柳本顕(あきら)氏(41)、知事候補の栗原貴子氏(53)について「夜中に彼らがしゃべったことをずーっとインターネットで見ている」と明かした。そして両氏の演説を「政策を一切語らない。歴史と伝統を大切にするとか当たり前のことを言ってもしょうがない」と批判してみせた。

 ただ橋下氏も、政治経験が4年半しかない吉村氏の知名度アップに頭を悩ませる。寄り添い過ぎては「親離れ」できないように見られ、「かえって逆効果になるのでは」とも考える。

 焦りは2日の選対会議でも表れた。吉村氏の票を掘り起こすため、現職の強みがある松井氏の活動地域を、大阪市内に集中させるか否かで意見が割れた。橋下氏は「賭けです! 大阪市内に絞ってください」と松井氏に掛け合った。しかし府議らが反発。市外でも活動する案が採用された。

 「大変厳しい選挙になります。選挙に勝てないと、前に進めることができない」。この日難波で、橋下氏は叫んだ。(野上英文

惚れて、裏切られ、決別へ

 自民党の朝倉秀実府議(62)は、今朝まで同僚の府議だった栗原氏の大阪市内での出陣式を遠巻きに見守った。栗原氏は「対立ではなく協調。ケンカばっかりしていてはだめだ」と橋下氏らの政治手法を批判した。朝倉氏は08年の知事選で府議団幹事長としてタレント弁護士だった橋下氏を担いだ。「政治家・橋下徹」の生みの親の一人だ。

 07年11月に初めて会った時の第一印象で「やられた」。テレビ収録後にTシャツ姿で駆けつけた橋下氏は礼儀正しい上に、運ばれてくるイタリア料理に手もつけず、府政に関する質問を次々ぶつけてきた。「斎藤道三が織田信長に会ったとたん、惚(ほ)れこんでしまったようだった」

 約1カ月後、自民党府連は橋下氏の推薦を決定。公明党府本部も支持で足並みをそろえた。「家の周り30枚くらいならポスターを貼れます」と話していた橋下氏のため、両党の府議が府内全域を走り回った。

 橋下氏は38歳で当時の全国最年少当選を果たす。就任前の橋下氏が府職員から政策の説明を受けるため、自民党府議団は控室の一角に机と椅子を置いた「仮知事室」を作った。橋渡し役は当時府議団政調会長の松井氏だった。橋下氏の初の府議会。朝倉氏は代表質問でエールを送りつつ「自民党も是々非々で対応する。『非』もあるかもしれないが、抵抗勢力と思わないで」と語りかけた。

 橋下氏との亀裂が見え始めたのは、そのわずか5カ月後。自公の府議団幹部と会食した橋下氏は、大阪市中心部にある府庁を11キロ離れた湾岸部に移すアイデアを切り出した。「現実的でない」と説得したが、無駄だった。橋下氏は移転計画を打ち出し、府議会は09年3月、関連議案を否決。これをきっかけに自民党府議団は分裂した。中心になったのは松井氏だった。

 橋下氏は10年に大阪都構想を掲げ、大阪維新の会を結成。橋下改革の「抵抗勢力」とされた自民党は11年の統一地方選で惨敗し、橋下氏のポスターを必死に貼った仲間も次々落選した。それが許せなかった。「首長が粘り強く賛同を得るのではなく、相手をたたきつぶす政治手法に走った」

 前回ダブル選では、自民党が支援した候補は松井・橋下コンビに大敗。今回府議団から擁立した栗原氏は11年の初当選組で「身内」だったころの橋下氏を知らない。その後輩に「維新政治からの決別」を託す。(上田真由美)

田原総一朗さん「無駄なくす方向性は良い」

 職員給与を下げたり、大阪市営地下鉄の民営化を打ち出したり、民間の意識を導入しようとした大阪維新の会の方向性は納得できる。地下鉄の初乗り料金を下げるなど、それなりに実績も残した。大阪府の全国学力調査の結果が低迷したことに問題意識を持ち、教育政策に力を入れたことも理解できる。

 政策に違いもある元東京都知事の石原慎太郎さんが「日本維新の会」に合流したあたりから、維新が何をしたいか見えにくくなり、政界引退を表明した橋下さんが暫定的とはいえ新党の代表に就くことには矛盾を感じる。しかし大阪では企業の転出が相次ぎ、人口の減少や生活保護の増大など地盤沈下は深刻だ。大阪都構想によって中央集権体制を打ち破り、大阪を活性化するとともに、大阪府と大阪市の二重行政による無駄をなくすという方向性は良いと思っている。

森永卓郎さん「行革の努力は不十分」

 ひと言で言えば、維新流の政治は単なるパフォーマンスだった。大阪府政、市政にとてつもない無駄があり、市民は思い切った行政改革を大阪維新の会に期待したが、結果的に評価できる政策はなされていない。

 例えば、文楽協会や交響楽団への補助金を減らしたが、一般会計の借金はそんなに減っていない。民間から人を入れようと導入した公募区長や公募校長は不祥事が相次いだ。住民投票で廃案となった大阪都構想も都、特別区、一部事務組合の三重行政になって、コストがかかるはずだ。

 橋下徹市長は大阪都構想が実現すれば、無駄を削減できると言うが、本気でやれば、今までにもっと行革はできたはず。細かい無駄を丁寧につぶしていくのが行革だが、その努力は不十分だった。橋下さんの言うことに意味があるのかどうか、有権者は慎重に判断して欲しい。