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中村鶴子さん(87)熊本県天草市

 「半袖の服はきれない。今も長袖を着ている」。被爆者へのアンケートに書かれた中村鶴子さん(87)=熊本県天草市=の言葉だ。原爆の傷痕が両腕にある。「今も」、が引っかかった。この夏、新聞紙面には「被爆70年」の言葉があふれる。でも、その年月の重みに記者(27)はどこか実感が伴わなかった。だからこそ聞きたかった。原爆は中村さんの70年に、何を背負わせたのか。天草の小さな港町を訪ねた。

 玄関で出迎えてくれた中村さんは、袖のない洋服を着ていた。

 「最近はあんまり気にせんばってん」。少し意外だったが、ノートを開き、当時の体験を聞き始めた。両腕のことを淡々と語る中村さんの姿を見ていると、重荷がいくぶん軽くなっているようにも思えた。

 そんな中村さんに変化があったのは、写真を撮ろうと記者がカメラを手にしたときだった。畳の上に置いていた茶色っぽいシャツを拾い上げた。ボタンをかけ終え、顔を上げる。長袖だった。

 あとから後悔したが、聞いてしまった。「写真のときは、長袖なんですか」

 中村さんは無言のまま、笑顔をつくる。そして、右手で左腕を、左手で右腕を、それぞれ2回ずつ、ポンポンとたたいた。

 胸が苦しかった。言葉がなくても、十分伝わってきた。70年経って今なお、自分を解放してくれない記憶。傷痕。

 シャッターが、なかなか切れな…

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