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 130人が犠牲となった13日のパリ同時多発テロで妻を失いながら、テロリストに向けてフェイスブック上に「憎しみという贈り物はあげない」と手紙をつづったパリ在住のフランス人映画ジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさん(34)が20日、朝日新聞の単独取材に応じた。世界中に広がる反響に「私の方が圧倒されている。人々はあの手紙に、新しいものを見いだしたわけではない。平和や愛、寛容の中で自由に生きたいという思いを呼び起こされたのだと思う」と語った。

 悲劇から1週間。仏政府は20日、非常事態宣言の3カ月延長を決めた。仏空軍は過激派組織「イスラム国」(IS)が支配するシリア北部を空爆。事件の首謀者とされるアブデルアミド・アバウド容疑者は死亡したが、各国はさらなるテロに対し厳戒態勢を敷く。

 レリスさんは「正直なところ、テレビもラジオもつけず、新聞も読んでいない」と言った。「世界中からのメッセージを、じっくり読んでいる。読むたびに心を動かされる。いいかげんに読むわけにはいかない」

 あの夜、パリ中心部のコンサートホール「ルバタクラン」で、妻エレーヌさん(35)を亡くした。

 遺体との対面まで2日かかった。病院という病院を捜し回った。「彼女を暗闇の中に置き去りにしたと思った。拷問のようだった」

 《君たちに憎しみという贈り物はあげない。君たちの望み通りに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈することになる》

 テロリストへの言葉は、妻を見つけ出した後、保育所に預けていた1歳5カ月の長男メルビルちゃんを連れて自宅に帰る途中、少しずつあふれてきたという。

 「憎しみに屈するわけにはいかない」と、自分に宛てて書き始めた言葉だった。同時に、息子への思いもあった。「彼には、世界に目を見開いて生きてほしい。世界を、より美しい場所にする人の一人になってもらいたい」

 メルビルちゃんに「お母さんは帰ってこない」と語りかけると、少しだけ泣いたという。「私も一緒に泣いた」。寂しさが募った時は、息子を抱いて2人でエレーヌさんの写真をながめ、好きだった音楽を聴き、ともに涙する。「泣くことは悪いことじゃない。寂しい時には当たり前のことだ」

 《私と息子は2人になった。でも世界中の軍隊よりも強い》。手紙に、こう書いた。保育所に週4日通い、ミニカーで遊び、公園に出かける。「普通の親と子の、ごく普通の毎日」を取り戻そうとしている。

 レリスさんの手紙はフェイスブックで20万回以上共有され、日本を含め各国から無数のメッセージが届いた。「フランスやサウジアラビアのイスラム教徒からも届いた」という。「テロはイスラム教の産物ではない。問題は、宗教の名の下に操られた人々だ。人さえためらいなく殺せる。そんな盲目的な憎しみに、私たちは盲目的な愛で答えよう」

 すべてのメッセージに返事を書き、いつか息子と、メッセージをくれた人たちと会う旅に出たいと思う。「私は何も特別な人間ではない。憎しみの感情に襲われそうになった時は、この手紙に立ち返って、生きる喜びを持ち続けたい」(パリ=渡辺志帆)