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 「妊娠中です」とまわりに示すマタニティーマーク。「反感を持たれそう」と、マークをかばんなどにつけるのをためらう人もいます。そんな記事をきっかけにご意見を募ったところ、80通を超える投稿が寄せられました。様々な声から「妊婦に優しい社会を」というだけではすまない現状が浮かび上がってきました。

これまでの経緯は

 「妊婦だからといってマークをつけて優遇されるのはおかしい」といった声がネットで広まり、使うのを控える動きがある、という記事を10月に出しました。多くの反響が届いたため、妊婦の気持ちやマークの成り立ちを紙面化し、意見を募りました。

 声欄でも10月、マークをつけた娘と電車に乗ったとき、だれも席を譲ってくれなかったという体験をつづった投稿を掲載。読者のみなさんから「優しい視点が社会に欠けている」「気づかないだけ」と様々な声が寄せられました。

読者の意見は

●埼玉県草加市 主婦(27) 流産を経験し、いま妊娠4カ月です。一度、電車の中で状態が急変したことがあります。呼吸ができず、冷や汗、めまい、つわりの吐き気に襲われて意識がもうろうとしました。普段は席を譲ってほしいとは思いませんが、この時は譲ってほしかった。でも怖くて言えませんでした。妊婦ごときで申し訳ないという思いもあって。マークへの賛否があるとネットで知って怖くなった時期もありましたが、幸せを見せびらかすためでなく、自分の身体と赤ちゃんを守るために覚悟したうえでつけているマークなのだと、たくさんの人に知ってもらいたいです。

●大阪市 主婦(38) 子どもが2人います。不妊治療中、マークをとても恨めしく思いました。なので、自分が妊娠した時は「私のマークで嫌な気分にさせるかも」とつけなかった。妊婦以外にも病気や痛みを抱えて席に座りたい人はたくさんいる。倒れて救急搬送された時のためにマークが必要というなら、共通マークを作り裏側に理由を記せばどうでしょうか。アレルギーなどで飲めない薬がある人でも使えます。

●シンガポール 会社員女性(44) シンガポールで働いていますが、日本のようにバスも電車も超満員で足の踏み場もないような状態はありません。日本で人に優しくできないのは、勤務時間の長さや異常な混雑などストレスの多い生活による影響ではないでしょうか。

●関西地方 主婦(30代) 3歳の長男の妊娠がわかってすぐに、大きなマークをネットで取り寄せてつけた。通勤中にぶつかられたり、混んだ電車でおなかを圧迫されたりするのが怖かった。もっとマークを知って下さいという思いもこめて。電車で4回席を譲ってもらい、感謝しています。私にとってはお守り。今も時々、マークを引き出しから取り出して見ます。息子の名前を考えながら生まれてくるのを待った、幸せな気持ちを思い出すから。街で見かけるとエールをおくりたくなります。妊婦さん、堂々とマークをつけて下さい。

     ◇

●さいたま市 無職男性(65) マークの存在は今回の記事を読むまで知りませんでした。優先席の窓ガラスにぜひ大きくワッペンを貼ってほしい。会社員時代に妊婦の方に席を譲ったこともあるが、太っている人に声をかけて恥ずかしい思いをさせないかと躊躇(ちゅうちょ)したことも何度かあります。妊婦の方から譲ってほしいと声をかけてくれたら一番いいのですが。

●埼玉県 高校3年女子(18) 電車の優先席に「席を譲って下さい」と音声や表示で知らせるボタンをつけたらいいのではないでしょうか。優先席に我が物顔で座っている若い人もいるし、マタニティーマークに気づかない人もいます。優先席を必要とするすべての人が意思表示できる環境を作れば、今より優しい社会になるのではないでしょうか。

●神戸市 主婦(38) ピンクの手描き調のマークは幼く見え、どうしてほしいのか目的がわかりにくい。車につける初心者マークのように、感情抜きで意図が伝わるデザインに変えた方がいいのでは。また、電車内ではみんなスマホを見ていて他者に関心を持たない。以前は妊婦に関心はなかったけど「自分が妊娠したからつらさをわかって!」というような女性に、どれだけの人が優しくできるでしょうか。学校で赤ちゃんとふれあう機会を作るなど、教育を通して、若い人が妊娠や出産を自分のこととしてとらえる意識を育てるしかありません。

●大阪府河内長野市 主婦(70) 電車で座っている人は寝るかスマホを見ているかで、ほとんどがマークに気づいていない。赤ちゃん同伴の人も使えるマタニティー車両があればいいのではないでしょうか。

●神戸市 会社員女性(35) 7月に産休に入り、8月に出産しました。マークをつけて嫌な思いをしたことはありませんが、おなかが大きくなるまであまり気づかれませんでした。とくに男性はマークの存在も知らず、つわりのため妊娠初期の方が体の負担が大きいということも知らない人がいました。これは社会全体で妊婦への理解を深める努力が少なかったからだと思います。子どもを持つことに前向きになれる社会にしていくためにも、妊娠、出産に対して社会人にも教育する機会を作る必要があると感じます。

マタニティーマークの生みの親に聞きました

 マタニティーマーク生みの親の片柳香子(きょうこ)さん(73)に話を聞きました。社会福祉法人・恩賜(おんし)財団母子愛育会埼玉県支部の常務理事をしていたときマークを考案。厚生労働省のマーク募集に支部として応募し、2006年、最優秀作品に選ばれました。

     ◇

 母子愛育会は子育て支援事業をしていて、各地でボランティアが活動しています。そのひとりのボランティアの話に突き動かされたのがきっかけです。

 東京に通勤している娘さんが妊娠4カ月でつらくて電車の優先席に座っていたら、60代ぐらいの男性に「若いくせに何だ!」と罵倒され、泣いて帰ってきたそうです。

 妊婦さんと赤ちゃんを守るために何かできないか――。赤ちゃんへの愛をテーマにマークを作ろうと思い立ちました。

 妊娠するとおなかが丸くなるので丸いデザインに。ハートも先っぽを丸く、顔も丸く、文字も丸く。お母さんの左手をおなかに添えたのは私の体験からです。4、5カ月の時、おなかの赤ちゃんが動いて、「アレ!」と左手をおなかにあてた。私、お母さんなんだと実感した瞬間。その幸せの瞬間を描いたのです。

 マルは優しさ、ピンクはやわらかさを表します。お母さんの口角が上がってほっぺがピンクなのは、以前私が美容の仕事をしていたからでしょうか。立体感のある顔にしたかったし、口紅やほお紅をぬるときは笑顔ですよね。

 印刷会社の女性イラストレーターと何十回もやりとりして04年、マークを半年がかりで仕上げました。

 当時、「妊婦です」と堂々と名乗るのははばかられ、幅5・4センチと小ぶりに作りました。気づいてくれたらうれしいという控えめな気持ちで。愛育会メンバーでお金を集めて、キーホルダー1万個を作って県内に配りました。厚労省に選ばれてから、全国の自治体や鉄道会社に広がっていきました。

 2年ぐらいして種子島に行った時、空港にマークのポスターがはってあって本当にうれしかった。妊婦さんに優しくという思いが広がっていく。当時は「おなかの目立たない時に助かる」と好意的な感想が多かったんですよ。

 近ごろ、マークに反感をもつという意見をネットで目にします。不妊治療をしているかたが見るとつらいという声も聞きます。苦しいと思います。

 私は富山県魚津市生まれで、化粧品会社の美容部員を7年務めて結婚退職した後、夫の転勤で横浜や東京と転々としました。慣れない都会で息子2人の子育ては近所のひとに助けられましたね。長男が骨折して病院にかけこんだ時は次男をみていてもらったし、2人をみてるからお風呂入りなと言ってもらった。

 子育ては一人ではできません。妊婦さんをあたたかく見守ってほしいです。

 赤ちゃんは希望の星です。次の時代を担う、おなかの子たちの命を守りたいと思うのです。

(聞き手・河合真美江)

鉄道会社の動きは

 JR東日本をはじめ関東周辺の16の鉄道会社などは、2006年8月から主要駅などでマタニティーマークの配布を始めた。「妊娠初期は妊婦と気づいてもらえない」「妊婦と思っても、勘違いかもしれないという恐れから席を譲ることができない」という乗客の声に応えた。JR東日本は「マークを身につけているが優先席を譲ってもらったことがない」といった声を受け、11年1月から首都圏を走る通勤電車の優先席にマークを貼り出し始めた。

 一方、関西の25の鉄道会社などは13年3月、マークのポスターやステッカーを駅や車内に貼る取り組みを始めている。協会内のお客様サービス・マナー向上小委員会で「マークの周知を」という声が高まったという。なかでも阪急電鉄、阪神電気鉄道、能勢電鉄はステッカーを全列車に貼り、大阪・梅田駅などでマークの配布もしている。

取材後記

 多くのご投稿、ありがとうございました。取材をした私たち2人は母親ですが、マークの受けとめ方が違います。

 5歳と3歳の子がいる記者(十河)は、妊娠中体調が不安定でマークをつけていました。もっと目立つ大きさならいいのにと思っていたし、妊婦さんが萎縮する動きがこれ以上広がらないでほしい。でも今回、不妊治療を経験した方の話を聞き、社会としてどうしてゆくべきか、悩んでいます。

 20年前に長女を出産した記者(河合)は、当時マークはなく、つけるか悩むことはありませんでした。子どもをもたない人の気持ちを思うと苦しく、マークは要るのか疑問もありました。でも、つけている人も「体調が悪い時だけつける」「席を譲ってというより倒れた時のため」と思いは様々なことを実感しました。

 気になったのは、男性からの投稿が1割にも満たなかったことです。それに、「つらいのは妊婦だけでない」という意見もありました。腰痛の人、内部疾患の人、難病の人……。見た目にわからないつらさを抱えている人が男性も含めみな、必要な配慮を受けられるようにすることが、マタニティーマークを使いやすくする鍵なのかもしれないと思い始めています。

 アイデアがいくつも寄せられ、希望を感じました。いろいろな立場の人が考えを出しあっていけたらと思います。(河合真美江、十河朋子)

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 マタニティーマークへのご意見を募集します。asahi_forum@asahi.comメールするか〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「フォーラム面」へ。

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