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 資生堂が、百貨店などの美容部員の働き方を昨春、見直した。子育て中の短時間勤務者に、できる限り土日や平日夜も働くよう求める内容だ。狙いは「周りの負担軽減と、育児中もキャリア向上できる働き方への挑戦」だが、最近は「やり方が厳しい」といった波紋も広がる。この改革、前進か、後退か――。

 資生堂が美容部員の働き方を見直したのは、2014年4月だ。東京都内で働く30代の女性部員は、新制度になってから月3回、平日の遅番に入る。4歳の長女の保育園の迎えは、夫が行くなどしている。「夕方以降のお店を見て、遅番の仕事量の多さが初めてわかりました」

 資生堂では4月時点で、美容部員約1万人のうち1100人超が女性のような育児時間制度(時短)の利用者だ。06年度の500人弱から増え続け、11年度に全体の1割にあたる1千人を超えた。子どもが小3までなら1日に2時間ぶんまで勤務を短くできる。働く時間帯に制限はないが、慣例的に土日勤務や平日の遅番勤務から外れていた。

 ところが、化粧品売り場が混み合うのは、仕事帰りの女性らが来店する平日夕方以降や、仕事が休みの土日だ。時短部員が増え、忙しいときほど人手が足りないのが悩みの種になった。本多由紀ビジネスパートナー室長は「時短の人と支える人との仕事のバランスが崩れ、不協和音まで出ていた」という。

 また、平日夜や週末は素早く的確な接客の経験を積める重要な時間だ。新制度で少しでも店頭に立てば、時短部員の技能や評価の向上につながるという狙いもあった。勤務時間は上司と部員が面談で決め、夫と家事・育児の分担を見直すなどして98%が応じた。だが、「続けられない」と退職した人もいた。

 この見直しが今夏から雑誌やテレビで報じられ、ネットなどでも議論になった。「資生堂ショック」「時代に逆行」といった書き込みの一方、「時短勤務が増えると現場はものすごく困る」「苦渋の決断だ」と理解する声もある。

 反響が大きいのは、日本企業の中でも資生堂は女性登用や育児支援に積極的で「女性が働きやすい会社」という印象が強いこともある。従業員の女性比率は約8割で、育休制度は法施行より2年早い1990年に導入。子どもが満3歳まで利用できるのも法定より長い。保育料補助や事業所内保育所も整えている。

 新制度は「出産後も働ける環境は整った。次は育児しつつキャリアを積む働き方をめざす」(本多室長)との位置づけだ。反響には困惑している。

「中抜け可」の企業も

 男女を問わず、仕事の能力を向上させながら、家事・育児と両立させる時代に入っている。資生堂に限らず、店舗で働く人を多く抱える企業などは知恵をしぼっている。

 スーパー最大手のイオンは昨冬、千葉市の大型店内に従業員向け保育所を開いた。時短の人も夜間や週末に働けるよう、延長料なしで年中無休で朝7時から夜10時まで預けられる。

 化粧品の日本ロレアルは5月、一般的な時短よりさらに短く、週2日以上働けばいい働き方を新設した。柔軟な制度を用意して長く勤めてもらい、キャリアにつなげるのが狙いだ。日用品大手のP&Gは今夏、一般職を対象に、1日の労働時間を満たせば保育園のお迎えなどで一時的に職場を離れる「中抜け」を認める制度を整えている。

 11年の総務省の社会生活基本調査では、パートなども含む共働き女性の育児・家事時間は1日に約5時間。男性の1時間弱より負担が重い。一方、内閣府によると週60時間以上働く女性は3・0%だが、男性は13・7%(12年)で裏腹の関係にある。

 東レ経営研究所の宮原淳二さんは「気持ちよく働いてもらうには、『周りへの配慮』と『成果』のバランスに向き合う必要がある。資生堂と同じ課題に、すぐどの会社も直面するだろう。会社と女性従業員だけの問題に落とし込まず、社会全体で議論すべきだ」と話す。(村井七緒子、山内深紗子)

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新しいステップ

 《大沢真知子・日本女子大教授(労働経済学)の話》 女性の勤続年数が長くなり、会社の戦力になってきた。人手不足もあり、女性に求められる責任が増す流れは止められない。資生堂の働き方の見直しは、日本社会にとって新しいステップだ。ただ、女性だけに育児と仕事の両立を求めるのは無理。託児のインフラ整備や、社会全体での長時間労働の見直し、男性の育児参加も欠かせない。

圧力になる恐れ

 《労働問題に詳しい新村響子弁護士の話》 労働者と会社は対等な関係ではない。立場の強い会社が「遅番や土日も働いて」と言えば労働者への圧力になり、時短が利用しにくくなる恐れがある。日本は男性の長時間労働が前提の職場が多く、女性に同じ働き方を求めたり、家事負担が偏ったりする傾向がある。労働時間の上限を設けるなど、男女を問わず長時間労働をなくす法律を整えるべきだ。

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 子育てしながら働く人が増え、仕事と家庭の両立のあり方について考え直す動きは資生堂に限りません。みなさんはどうすべきだと思いますか。ご意見をasahi_forum@asahi.comメールするか、〒104・8011(住所不要)朝日新聞オピニオン編集部「働き方改革」係へお寄せ下さい。