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【2009年3月21日 朝刊社会面】

 自力で逃げ出せないお年寄りら7人が犠牲になった群馬県渋川市の「静養ホームたまゆら」。燃えさかる火の中から入所者を助け出したのは、近隣の高齢者施設の職員や住民たちだった。「どんな人がいるのかも分からない」。周囲では、管理体制を危ぶむ声が以前からあったという。

 ふだんなら明かりもまばらな深夜の田園地帯を、火柱が赤々と照らしていた。全半焼した「たまゆら」から約150メートル離れた特別養護老人ホームに勤める藤沼紀芳さん(36)は、ごうごうと音を立てる火を見て同僚の佐藤潤さん(27)と現場に駆けつけた。

 「バチッバチッ」。木が焼け落ちる音。「中に人が」という声が響いた。炎を上げる建物からたまゆらの女性職員や近所の人らが入所者をかついで運びだそうとしていた。

 藤沼さんと佐藤さんはガラスが抜けた窓から建物に入った。廊下は煙が充満し、2~3メートル先まで火が迫っていた。

 部屋に入ると、ベッドに入所者が横たわっていた。「ひー」。自力で歩くこともままならず、悲鳴にならないようなうなり声をあげている人もいた。ベッドから引きずり出すようにして連れ出した。

 「まだ、奥の建物に人がいる」。だれかの声が聞こえたが、火勢が強く、救助をあきらめるしかなかった。「無我夢中で……。助け出せる人を助けようと、それしか考えなかった」。藤沼さんは言った。

 近くに住む主婦後藤明美さん(57)は、自宅近くの事務所から帰宅する途中で「パチパチ」と竹を割るような音に気づいた。消防に通報し、夫の一さん(59)をたたき起こして現場に行き、救助活動にあたった。目が不自由な人や車いすを利用する人もいた。消防隊に救出された人はやけどがひどく、パジャマも髪も焦げていた。助け出された入所者たちは道ばたに横たわり、病院へ運ばれていった。

 全半焼した3棟のうち、藤沼さんたちが飛び込んだのは、道路から一番手前にある本館「妙義」。ここにいた男性3人と女性2人は全員が助け出された。5人は藤沼さんらが勤める老人ホームまで車いすを押されて避難し、保護された。けがはなく、すぐに布団で寝入ったという。

 5人の中に母親(84)がいた男性(63)は「元気な顔を見て安心した」と言った。母親はほとんど動けず、要介護度は5。職員の紹介で、2年前から入居していたという。

 ●行方不明の方々

 大友良隆さん(73)▽梶藤ふみさん(71)▽久保田文雄さん(55)▽山田登美子さん(84)▽尾池純さん(72)▽沢村晴男さん(75)▽佐藤政子さん(84)(群馬県警調べ)

 ◇近隣とトラブル 倒れた入所者の迎えに訪れず

 「たまゆら」は入所者の扱いをめぐり、近隣住民とのトラブルを起こしていた。

 後藤一さんによると、今年1月下旬の夜、入所者の女性が後藤さん宅に裸足でやって来た。事情を聴くと、前日にたまゆらに入所したという。女性は「兄に東京から連れて来られたが、自分の意思ではなく、(たまゆらには)戻りたくない」「介護付きだからと聞いてきたが、一切ない」と話したという。

 また、以前には、入所者が散歩中、後藤さん宅の裏で突然倒れたことがあった。「たまゆらに連絡したが、だれも迎えに来ないので、自分で救急車を呼んだ。あとで施設に抗議したら、職員の男性が、食事をつくるのに忙しかったと言い訳した」と話す。

 ほかの周辺住民からも、「たまゆらから、地元の住民に説明がないので、どんな人が入所しているのか分からなかった」と、管理体制を心配する声も出ていたという。

 たまゆらを運営するNPO法人・彩経会の高桑五郎理事長(84)は「警察と消防に協力し、終わったらしっかりと答えます」などと述べた。

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