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【2009年3月22日 朝刊1面】

 群馬県渋川市の高齢者向け住宅「静養ホームたまゆら」で19日夜に起きた火災で、21日夜までに10人の入所者が亡くなった。入所者の名前はすべてわかっているが、親族に連絡が取れない人も多く、遺体が誰なのかを確認する作業が進んでいない。その遅れの背景には、入所者の孤独な境遇が浮かび上がる。

 渋川署によると、この日までに身元が判明したのは搬送先の病院で亡くなった3人だけだ。現場に残された7遺体は損傷が激しいこともあり、身元を特定できていない。7遺体のうち3人が男性、1人が女性と確認されたが、残る3人は性別もまだ把握されていない状況だ。

 身元確認などのためには親族への連絡が必要になる。同署に自治体も協力してきたが作業は難航しているようだ。

 「たまゆら」に15人の生活保護受給者を紹介した東京都墨田区。20日に担当ケースワーカーが親族に連絡を取ったところ、ある親族から返ってきたのは怒声だったという。「何で電話したんだ。縁を切ったのに」。もともと身寄りのない人の場合は、連絡すら取れない。その後、親族への連絡は署側に任せたという。

 一方、21日昼までに入所者の親族の側から区役所にかかってきた電話は1本のみ。「事件を知り、巻き込まれたのではないかと思って電話した」と淡々と話したという。

 火災現場には21日、区職員と群馬県議が献花した。それ以外に花は見かけられず、手を合わせに訪れる人もほとんどなかった。

 入所者は地元の自治会にも入っておらず、日常的な住民との交流はなかったという。「見舞いに行く関係もできなかったのは、さびしいものです」と近所の会社員の男性(47)は話した。

 「たまゆら」を運営するNPO法人「彩経会」の高桑五郎理事長(84)によると、入所者が亡くなり、遺体の引き取り手がない場合には施設で葬儀を営んでいた。年に10回ほどはあったという。

 群馬県内の警察医によると、火災の被害者の身元がわからない場合は歯による鑑定が重要になる。親族などに連絡が取れて、かかっていた歯科医院などが判明すれば身元確認につながる。

 だが、親族と連絡が取れても治療していなかったり、カルテが保存されていなかったりすれば照合できず、作業は困難さを増すことになる。

 ●死者10人に 失火の見方

 「静養ホームたまゆら」の火災で、県警は、火の気のない室内から出火した可能性が高いとして、失火との見方を強めていることが捜査関係者への取材でわかった。また、数年前にも同施設でたばこの不始末が原因とみられるぼや騒ぎがあったことも、複数の関係者の話でわかった。21日夜には前橋市内の病院で治療を受けていた男性が亡くなり、死者は計10人になった。

 関係者によると、「たまゆら」では07年ごろ、今回焼けた3棟から50メートルほど離れた別棟付近にあった資材などが燃えるぼや騒ぎがあったという。当時、この別棟に入所していた男性は喫煙の習慣があり、たばこの不始末がたびたび問題にされていた。県警によると、この男性は7人が遺体でみつかった敷地北側の別館「赤城」で行方不明になっており、男性の居室付近が最も激しく焼けていたという。

 また、「たまゆら」は増改築を繰り返しており、違法建築の可能性もあるとみて県が調査に乗り出した。現況が配置図と異なる部分があり、違法な増改築が行われた可能性があるという。

 渋川署によると、21日夜に亡くなったのは深井隆次さん(77)。墨田区役所の紹介で07年7月に入所していた。

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