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編集委員・箱田哲也

 韓国との国交正常化に大きな役割を果たした岸信介・元首相。国内の激しい反対を押し切り、日本との関係を正常化させた朴正熙(パクチョンヒ)・元大統領。それぞれの孫と娘である安倍晋三首相と朴槿恵(パククネ)大統領が、日韓新時代の幕を開こうとしている。

 最大の懸案だった慰安婦問題で日韓外相が合意をみた後、2人は電話で「私たち首脳が責任を持って対応していこう」と確認しあった。

 50年前の国交正常化は確かに両国の距離を縮め、人々の交流を深めた。しかし、国力を増し、民主化を勝ち取った韓国には「(過去の清算が)圧倒的な力の差で押し切られた」との思いがますます募った。かたや成長が頭打ちする日本では、台頭した韓国を見る心の余裕が薄れてきた。

 1990年代に政治問題化した慰安婦問題は、そんな日韓の歴史認識がぶつかりあう象徴となってしまった。

 戦後70年のいま、両国が過去ばかりに縛られているわけにはいかないことははっきりしている。先行きが見通せない北朝鮮情勢、環境や資源など地球規模の課題、国内の少子化や高齢化、広がる格差――。共通する課題に取り組む隣国同士が手を取り合う必要性は増している。

 国交半世紀の節目の年もカウントダウンに入った28日、ナショナリズムや反目を超えて、新たな関係の出発点となりうる合意にこぎつけた両国の政治指導者の決断は評価したい。

 だが、これはスタート地点にすぎない。

 合意は、あくまでも政治的決着をしただけだ。安倍首相による元慰安婦への謝罪と反省のメッセージや双方の約束事は盛り込まれたが、肝心なのはこの合意という器に「たましい」を入れることだ。

 日本は謝罪を言い放しにしたり、真意を疑わせたりする言動に気をつけねばならない。韓国も、世論に流されて約束をほごにするようなことがあってはならない。両外相が確認した「不可逆的な解決」はそれぞれ自らにも向けられている。

 今こそ慰安婦問題の原点を見つめ直すことが大切だ。元慰安婦の女性たちの心を癒やし、尊厳を回復する必要がある。紛争下で女性の人権をいかに守るのかはまさしく現代の問題であり、日本と韓国が手を携えて取り組むことができる目標でもある。

 産声を上げたばかりの合意はこれから、多くの試練にさらされるだろう。それらを乗り越え、中身を充実させていくのは政治家だけの役割ではない。今後、どんな隣国関係を作っていくのか。それを考え、育んでいくのは市民である。

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