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第5章:2

 「こんな格好でいいのだろうか」。補充裁判員に選ばれた鹿児島県北部在住の山田幸恵さん(32、仮名)は、自分の服装が気になった。

 担当するのは、息子が母親を車でひいて死なせたとされる傷害致死事件。鹿児島地裁で選任手続きがあった2012年9月20日の午後から初公判が始まることになっていた。

 選ばれるとは思っていなかったから、地裁のある鹿児島市内で買い物でもして帰ろうと、お気に入りの明るめの青系のワンピースを着てきていた。「人を裁くという立場なのに、スーツとかちゃんとした格好をしていた方がよかったかな」。申し訳ない、という思いに襲われた。

 裁判員に選ばれたのは、女性5人男性1人の計6人、補充は山田さんと男性の計2人。女性たちはみな「この服装で法壇に座っていいのかしら?」と恐縮していた。男性の裁判員もポロシャツ姿だった。

 選任手続き後、評議室で顔を合わせた山田さんらに対して裁判長は、こう言った。「裁判員を番号で呼ぶところもあるが、ひとつのチームとしてやっていきたいので、少しでもお互いに仲間として思えるように名前で呼んでもらいます。実名でもいいし、仮名でも、ニックネームでもいいです」。用意された色画用紙に思い思いの名前を書いて机の上に立てた。山田さんは名字をひらがなで書き込んだ。

 中央の円卓には男性裁判官3人と裁判員6人が座り、補充は横に置かれた長机に座らなくてはならなかった。円卓の構造上の問題だと説明された。実際、補充裁判員は被告への質問が直接できないことを除けば、扱いは同じだった。

 勝手に冷たい感じというイメージをもっていた裁判官は、とにかく丁寧で、ふつうのおじさんだった。「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則の説明もしてくれた。

 だが、心の準備ができていなかった。できれば、公判は翌日からにしてほしかった。

 午後から始まった初公判。入廷すると、一斉に傍聴人が起立、お辞儀をして着席した。緊張感がみなぎっていた。

 補充裁判員の山田さんは、3人の裁判官と6人の裁判員が座る法壇の少し後ろの席に座った。

 被告の男性がうつむいて座っていた。見るからに、気が弱そうだった。実年齢は62歳だが、外見は70代に見えた。

 起訴状によると、男性は11年5月の夜、自宅敷地内で軽乗用車の前に立っている母親(事件当時82)に気づいていたにもかかわらず、車を発進させ、ひいて死なせた、とされていた。

 男性は最初は殺害容疑で逮捕さ…

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