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第5章:4

 「裁判所に行ったのは夢? 私は夢の中にいたんだろうか?」

 息子が母親を車でひいたとされる傷害致死事件の裁判で補充裁判員を務めていた山田幸恵さん(32、仮名)は何度も思った。

 前日の2012年9月21日には、現場検証に参加した。翌22日から週末に入り、裁判所通いは小休止。そのため、自宅のある鹿児島県北部でパートの仕事をしていた。

 頭がボーッとしていた。前の週に裁判所に出向いてから起こったことがどこか非現実的で、地に足がついていない感じがした。「月曜日になったら、本当にまた裁判所に行かなくてはいけないのだろうか。もしかして、これは夢?」

 何度も心の中で確かめた。

 裁判の期間中は、頭がさえ、あまり眠れなかった。夜もベッドに入ると、1時間ほどは眠るのだが、すぐに目が覚めた。目を閉じてうとうとしても、またすぐに目が覚めてしまう。枕元の時計をみると、針は10分ぐらいしか進んでいない。裁判が終わるまでは、その繰り返しだった。

 そんな状態でも、裁判中に眠気に襲われることは全くなかった。夜眠れないので、午前6時半の始発のバスに乗ったが、約2時間の道中も眠たくならなかった。

 初公判から判決までの9日間、事件のことを考えない時間はないぐらい、頭が動き続けた。

 そのせいか、自分でもびっくりするほど、異様に甘い物が食べたくなった。現場検証にもチョコレートを持参して口に運んでいたが、週明けからは、それでは足りず、裁判所に黒砂糖を持っていって、休憩中にかじった。

 「自分は人を裁けるような人間ではない。だから、せめて一生懸命に務めよう。後から間違っていたでは済まされない」。後悔がないように、どんな小さなことでも疑問があれば、質問しようと、山田さんは心に決めていた。そんな思いが、体にエネルギーを必要とさせていたのかもしれない。

 24日の月曜から法廷が再開された。

 母親(事件当時82)を車でひいて死亡させたとされた被告(裁判当時62)の態度はあいまいだった。弁護人の質問に「はい」と答え、検察官が全く逆の質問をしても「はい」と答えた。

 ウソをついていると見る人もい…

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