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第5章:5

 2012年9月26日、鹿児島地裁で行われていた裁判員裁判で、母親(事件当時82)を車でひいて死なせたとされる被告の男性(裁判当時62)に対して、検察側は懲役6年を求刑した。

 補充裁判員だった山田幸恵さん(32、仮名)らは評議室に戻り、有罪か無罪か、被告は故意だったのかどうかを話し合った。

 被告は、法廷では弁護側、検察側いずれの質問にもうなずき、「はい」と言った。受け答えはあいまいで、母親の立ち位置などは質問のたびに変わった。

 弁護側は母親がなんらかの原因で倒れてきたために被告が車でひいたと「過失」を主張。それに対して検察側は、遺体を司法解剖した医師を証人として呼んだ。この医師は、遺体の傷から、母親は立っていたところを衝突されてひかれた、などと証言した。

 現場検証や法廷でのやりとりを振り返り、裁判体はこの日、被告の「故意」を認め有罪と判断。翌日に量刑を話し合うことにして、午後5時すぎに解散した。

 山田さんは、疑問点はなんでも評議の場で尋ねた。しかし、意見を言うことはできなかった。「自分が意見を言って、人の意見を左右したり、評議の流れが変わったりするのが怖かった」と振り返る。

 帰り支度をして、家路に向かおうとした。しかし、裁判所の出口のところで、足が止まってしまった。

 「本当に故意だったのだろうか。見落としていることはないだろうか」

 そんな疑問が頭をもたげてきた。「故意」と「過失」では全く違う結論になってしまう。

 裁判員や補充裁判員は資料やメモを一切裁判所の外に持ち出せない。だから、家で見返すことはできない。疲れていたので帰りたいという気持ちがある一方で、もう一度、ゆっくり考えられる場所で資料を見ながら考えた方がいいのでは、と感じた。山田さんは引き返した。

 「もう少し残っていてもいいですか?」

 裁判所の職員に声をかけ、評議室に戻った。

 ホワイトボードには議論した論…

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