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第5章:7

 彼岸花を見ると、山田幸恵さん(32、仮名)は、自分が補充裁判員として2012年9月に鹿児島地裁で担当した裁判のことを思い出す。1週間通った評議室に、その赤い花が飾ってあったからだ。

 振り返ると、「不思議な体験だった」と思う。自分がかかわることなどないと思っていた世界だったからだ。

 裁判が終わった直後は、自分の体験を消化できなかった。「あの体験は何だったのだろう?」と思い続けた。ほかの裁判を見てみたいという思いに駆られ、仕事が休みの日に、片道2時間かけて、何度か裁判員裁判の傍聴に出かけた。

 裁判所主催の意見交換会にも出かけた。形式的なものだったが、その場にはほかの裁判の裁判員経験者や裁判官、検察官、弁護士、記者も来ていた。

 知り合いができ、話をしているうちに、自分たちに示された証拠がすべてではないことに気づいた。公判前整理手続きは、当初は、料理の下準備と同じだという説明を受けていた。準備がしてあるから、審理期間も短くできると、そのまま理解していた。だが、時間がたつと、思っていたより、出される証拠が絞られていたのではないかと思うようになった。

 この事件は、そもそも当初は12年5月に公判が開かれる予定だった。最初の裁判員候補者に呼び出し状が送られた後に、争点整理に時間がかかりそうだとして公判日程が取り消された。その後、改めて日程が決まり、裁判員候補が選び直されたという経緯がある。

 山田さんは言う。「いま考えると、裁判の流れは誘導というほどではないが、ある程度の方向性が示されていたように感じる」。つまり、証拠を食材にたとえると、ジャガイモ、ニンジン、肉が用意されて、好きなものを作ってというのではなく、「カレー粉まで用意されていた」と振り返る。

 「公判前整理手続きはどの料理をつくるかを決めて、材料が切られているようなものではないか。だから、何をしてもできる料理は変わらない。見た目や味付けは多少変わってくるかもしれないけれど……。証拠が整理されすぎているように感じる」と山田さん。

 判断する根拠となった解剖医の意見も、ほかの医師の意見も聞いていたら、違う評価だったかもしれない、といまは思う。

 当初は「あれでよかったんだ」と思い込もうとしていた。それが、証拠がすべて出されているわけではないことや、検察側が圧倒的に有利であるという裏事情が少しわかると、「自分たちの判断は正しかったのだろうか」という思いもわき起こった。悩んで、苦しくなった時期もあった。

 事件を担当した弁護士ともその…

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