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 千変万化しながらも、その男はその男のままであった。10日に69年の生涯を閉じた希代のロックアーティスト、デビッド・ボウイ。音楽、ファッション、ポップアート、映画と多彩な領域での表現の奥にあった不変の輝きとは何だったのか。

デザイナー・山本寛斎さん 男女の定義づけ、超越

 洋の東西でいえば、日本とイギリス。デビッド・ボウイさんと私は、地理的には全く離れていました。彼は私生活を秘密にしたり公にしたりと発表の仕方を使い分けていたし、私は「我ここにあり」みたいな感覚で生きてきましたが、表現したかったことは共通していたような気がします。ステージでは、音楽だけでなく、服からもすごいオーラを発していた。不思議なめぐり合わせで交友関係を持てた。その後はそれぞれの人生を進みましたけれど、言葉にできないような影響を受け合ったなと感じています。

 私が思う彼の大きな功績は、自分の表現を音楽とファッションの二つの形で行ったこと。ビートルズだって、そこまではやっていなかった。また、男女の定義づけのそれまでの約束事を次々と破っていったこと。たとえば、彼とモデルのケイト・モスが、私が手掛けた同じ服を着ている写真がある。最初は他の女性のために作ったので、男性が着るとは全く予想してなかった。彼は性差を超えて存在しているんだなとつくづく驚きました。ファッションアイコンとしても強い存在感があった。特に彼が活動の場をアメリカに広げてからは、ミック・ジャガーやスティービー・ワンダーらからも次々と私のところにコンタクトを取ってきた。 本当に優しい、そしてすごくナーバスな人だった。服のデザインでも、ああして欲しいこうして欲しいと1度も言われたことはありません。ありのままに受け入れてくれました。日本がお好きで、本格的な和式の住まいでご一緒したこともあります。歌舞伎の引き抜き(服に仕掛けた糸を抜いて素早く衣装替えをすること)などの手法を応用した作品を面白がって、舞台衣装に使ってくれました。

 クリエーターは、どこかで常に死を覚悟して生きています。一年以上も病気と闘ったそうですが、あれだけの充実した時間を過ごし、認められて、世界中で愛された。それはとても素晴らしいことです。彼の美学や人生をかけて発表してきたものは、日本で開催予定の彼の展覧会でもきっと日本の若者にも伝わることでしょう。レディー・ガガだって、彼のことを父親だと言ってるくらいですから。

美術家・横尾忠則さん ヒューマノイドのよう

 1970年代、ボウイたちがグラムロックを始めた時、洗練されたセクシュアルな音楽に心がざわつき、すぐにファンになった。

 音楽を視覚化したロックスターだ。地球外の星から飛来したヒューマノイドのような容姿。見せて聞かせる音楽は、ファッショナブルでユニセックス。男性原理と女性原理を合体させたもので、アートとはそういうものだと思う。

 メディアやジャンルを超え、当時の社会に影響を与えた人だった。

 僕の画集に興味を持ってくれたらしく、来日したとき会った。ボウイは僕の絵を「パンク」と評した先駆者だ。ジェントルマンでシャイ。昔から知っているようにフレンドリーだった。

 美術やファッション、映画、演劇、パフォーマンスに関心をもっていた。美術のアーティストたちも、みんな知的センスのある彼に関心を持っていた。

音楽家・巻上公一さん 天上からのシャウト

 様々なアーティストに影響を与えたボウイは、ロックアーティストの中でナンバーワンの存在だと思う。

 初期はスターというよりカルトヒーロー。架空のスター「ジギー・スターダスト」を作り上げ、SF的な構想でグラムロックを先導した。その後、ソウルに傾倒した時期を経て、1976~79年録音の「ベルリン三部作」では、アメリカでパンクやニューウェーブが盛んだった時代に、ブライアン・イーノとの共作で、あえてジャーマンロックのスタイルを取り入れた。

 ボウイはいま流行(はや)っているものではなく、その先に何が必要かを、常に見ていた。だから長い間輝きを失わずにきた。これだけ過去のものにならないロックスターは、他にはいない。

 なめらかな艶の低音と、虹色にけいれんするファルセット、天上からのシャウト。ボウイは一つの声に多重な人格を忍び込ませた。

 かなりの読書家でもあったのではないか。ウラジーミル・ナボコフ、トマス・ピンチョンといった作家の小説から音楽的なヒントを得たり、歌詞にもカットアップと呼ばれる、フレーズをいったんバラバラにして組み立てる手法を使ったり。文学的なスタイルでロックを表現していた。

 作品には孤独感や、自分がなぜそこにいるのかという違和感、悩みが出ている。一方で、自己を直接的に吐露するのではなく、虚構を提出することで、物事の見え方の屈折率を変え、もう一段階進んだ表現にしていた。

 いかに深く自己をみつめるか。ボウイは常に孤独に、何かを発見しようとしていた。

     ◇

 《David Bowie》 英ロックアーティスト。1960年代後半から70年代前半ごろまでは唯美、奇矯、SF、中性的なイメージを強調。アルバム「ジギー・スターダスト」などでグラムロックの代表格に。70年代後半はベルリン3部作と称される「ロウ」「ヒーローズ」「ロジャー」を制作、楽曲は暗鬱(あんうつ)に深まった。80年代はダンス音楽を吸収、「レッツ・ダンス」が世界的にヒット。90年代以降はクラブ音楽なども包摂していった。俳優としても活躍。83年公開の映画「戦場のメリークリスマス」(大島渚〈なぎさ〉監督)で演じた英軍将校役は強烈な印象を残した。(聞き手・構成=編集委員・高橋牧子、編集委員・大西若人、依田彰、岡田慶子)