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 「北陸六味」は朝日新聞北陸共通地域面で連載中のコラムです。デジタル版では、過去の回から抜粋して随時配信します。今回は富山出身の社会学者・上野千鶴子さんです(2月5日掲載)。

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 新刊『おひとりさまの最期』(朝日新聞出版、2015年)を出した。『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』と続いて、「おひとりさまシリーズ」3部作が完結したことになる。

 刊行後、めちゃめちゃおもしろい本を見つけて、本を書く前に読んでおけばよかった、と後悔した。大阪府門真市の開業医、辻川覚志さんによる『老後はひとり暮らしが幸せ』(水曜社、13年)。60歳以上の高齢者460人を対象に調査した結果から、結論を引き出している。なにしろデータにもとづいているから説得力がある。

 それによると、独居高齢者の生活満足度のほうが同居者より高く、その満足度は心身の状況が変化しても変わらない。しかも子どものある人とない人とでは満足度はほとんど変わらないことがわかった。娘が近居していると満足度はやや高くなるが、それ以外では子どもの有無が老後の満足度に関係しない、という結果が出た。

 同居の家族数と満足度の関係を調べると、もっとも満足度が高いのはひとり暮らし、最低がふたり暮らし。この中には夫婦世帯が入る。あいだに緩衝地帯のないふたり暮らしはストレスが高そうだ。3人になるとやや満足度が高くなり、4人以上の3世代同居の満足度は、ほぼひとり暮らしに匹敵する。

 なら3世代同居がよいか、と言えば、同居者が増えるほど、反対に満足度を減点する「悩み」が増える。カラダの不調は家族に言っても詮(せん)ないことと、同居者のいる高齢者もあきらめがついている。悩みの出処(でどころ)はすべて家族から。ひとり暮らしにはその減点要素がない。なるほど。

 辻川先生の処方箋(せん)は以下の三つ。第一に、高齢になったら、生活環境を変えないことが大事。慣れ親しんだ家や土地を離れないことである。第二に、真に信頼のおける友を持つこと。心を開いて話せる友はたくさんは要らないし、遠くに離れていてたまに会うだけでもいい。反対に、近くにいて挨拶(あいさつ)を交わしたり助け合ったりする「ゆる友」ことゆるやかな交友関係では、互いに内面に踏みこむような話をしなくてもいい。

 第三に、ひとり暮らしの満足度の源は、なんと言っても家族に気を使わずにすむ自由な暮らしができること。同居家族がいればいるだけ、気を使う相手が増える。また期待した分だけ、期待がはずれると傷ついたりつらい思いをしたりする。それなら最初から期待しないで、ひとり暮らしをしている高齢者のほうが、穏やかな気持ちで暮らせるようだ。

 先生の結論はこれ。「満足のいく老後の暮らしを追いかけたら、なんと独居に行き着いたのです」

 ほんとはわたしもこの一言を自分の本に書きたかった……のに、おひとりさまのわたしがこう言えば「負け犬の遠吠(ぼ)え」になってしまう。その点、辻川先生の主張は、エビデンス(証拠)にもとづいているから、強い。この本を読んで、子どもと同居したり施設に入ろうかと思っていたが、やめた、というお年寄りもあらわれるだろうか。(社会学者)