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支えだった夫が突然死

 埼玉県飯能市に住む女性(61)は2005年末、右の胸に、えくぼのようなへこみを見つけた。

 嫌な予感がした。

 「まさか、がん? 治療に何百万円もかかるのかな。でも、我が家にそんな余裕はないし……」

 3人の子どものうち、末娘はまだ高校生。学費がかかることを考え、受診をためらった。

 しばらくすると、右の乳房から乳汁のようなものが出るようになり、埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町)を受診。右の乳房に針を刺して細胞を調べる検査を受けた。見つかったのは5センチほどのがん。06年1月、乳房の全摘手術を受けた後、抗がん剤治療をした。

 副作用で髪が抜け、吐き気にも悩まされた。だが、悲観せずに過ごせた。いつも明るく振る舞ってくれる夫の存在が大きかった。

 女性が風呂上がりにウィッグをつけずにいると、夫は「おっ、三蔵法師みたいだな。拝んじゃうねぇ」とおどけてみせた。

 大手電機会社で働く夫は連日深夜に帰宅したが、休みのたびにドライブに誘ってくれた。疲れを気遣うと、「お母さんと車に乗って話すのが、ストレス解消なんだ」と言った。ある時、夫は2匹の猫が描かれたはがきを買った。「黒い方が俺で、三毛がお母さんだ」と笑った。

 その後は再発の兆候もなく、経過は順調だった。手術から3年過ぎた09年には3カ月ごとに受診して年に1回検査するだけだった。

 7月下旬のある朝、女性はいつものように夫を車で駅まで送った。家に戻り一息ついた時だった。

 電話が鳴った。「ご主人が、電車の中で倒れました。すぐに病院に来てください」

 搬送先の埼玉医科大学国際医療センター(埼玉県日高市)に着くと、夫は胸に電気ショックの治療を受けていた。

 「すでに、脳死状態です」

 ピーッという音とともに、画面の波形がまっすぐになった。

 心疾患による突然死。気がつくと、横たわって動かない夫(当時60)と2人、霊安室にいた。

 「お父さん、ついさっき、『行ってきます』って言ってたのに」

 夫の死から数カ月後、女性は再びがんと向き合うことになる。

 

思いを聞いてくれた先生

 2009年夏、夫(当時60)を突然失った埼玉県飯能市の女性(61)は、告別式の準備や夫の勤務先とのやりとりに追われた。

 3年前に患った乳がんの定期検査を受けたのは、夫の死から半年後の10年1月だった。検査の結果、新たに大腸にがんが見つかった。2月下旬、大腸の一部を摘出する手術を受けることになった。

 主治医で埼玉医科大学病院乳腺腫瘍(しゅよう)科講師の竹内英樹(たけうちひでき)さん(43)は、不安で表情が曇る女性に声をかけた。

 「乳がんからの転移ではないですよ。きちんと治療できれば治ります。大丈夫、大丈夫」

 その言葉を聞いて、女性は少しほっとした。そして切り出した。

 「先生、実は半年前に、主人が突然亡くなりまして……」

 さらに、後悔の気持ちも語った。

 「半年ほど前から血便に気づいていました。早く受診すればよかったのに……」

 夫の死に加え、再びがんと向き合うことになった女性。その心の負担を案じた竹内さんは、提案をした。

 「外科医の私なんかより、よく話を聞いてくれる先生がいます。受診してみませんか」

 手術の3日後、病室に国際医療…

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