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宮崎幸子さん(1930年生まれ)

 「もう元の昭(あき)ちゃんの顔に戻ってるよね……」。長崎市の宮崎幸子(みやざきさちこ)さん(85)は、幼なじみの昭ちゃんが今、天国でどうしているのかを想像する。優しかった昭ちゃん。宮崎さんがいつも守ってあげていて、「結婚してやっけん」と言っていた。初恋の人だった。

 1945年8月、原爆が落とされて2日後に見た昭ちゃんは全身が焼けていて、顔を見ても誰だかわからなかった。火葬される時、昭ちゃんの父親が「一人で行かせん」と火に飛び込もうとするのを見て、宮崎さんは怖くてその場から逃げた。

 「原爆に遭うたことも、伝えないといけないことはわかっているけど、言葉が見つからない。痛い、悲しい、つらい、苦しい、それしかないじゃないですか」。そう語る宮崎さんに私は返す言葉がなかった。

 宮崎さんの思いを記事で伝えきることは難しいかもしれない。だが、涙ながらに語ってくれた胸の内を、責任を持って伝えなければいけないと思っている。

 宮崎さんが被爆したのは、女学校の3年生(現在の中学3年生)の時だ。

 当時の女学校は戦争一色だった。学校では竹やりの訓練があった。砂を投げて目つぶしをしている間に、竹やりで突く。今は「その間に鉄砲で撃たれるよねって思う」が、当時は真剣だったという。

 米国と英国の国旗を廊下に敷いて、踏んで歩きもした。運動場を耕して畑にする時、道具のことを「シャベル」と言ったら、罰で1時間立たされた。敵国の言葉だったからだ。

 女学生も工場に動員された。宮崎さんは三菱兵器茂里町工場で働いていた。

 45年8月、偶然、小学校時代からの幼なじみの昭ちゃんに会った。若い男女が2人で話すのははばかられた時代で、目立たないように腰の横で小さく手を振った。昭ちゃんも同じように振り、互いにうなずき合った。昭ちゃんは笑顔だった。原爆が落ちたのは、その2日後。生きている昭ちゃんと会ったのは、それが最後だった。

 8月9日。宮崎さんは動員先の三菱兵器茂里町工場にいた。現在は大型商業施設がある付近の場所だ。

 職場には番兵がいたが、入れ替わりの時間になり、いなくなった。そのすきに、宮崎さんは遊びのつもりでコンクリートでできた鉄くずを入れるゴミ箱の中に入っていた。

 その時、原爆が落ちた。気がついたら周囲は火の海。「助けて下さい」と叫んだ。爆心地から南1・2キロだった。

 誰が救い出してくれたのかも、それからどこを歩いたかも覚えていない。工場のそばの川の横を通った記憶はある。家にたどり着いたのは翌日だった。母親は「よう生きとったね」と喜んだ。宮崎さんは頭や背中にけがをしていた。戦後しばらくは、背中から鉄くずが浮いて出てきたという。

 母はこうも言った。「昭ちゃん、おらんとげな」。仲の良い幼なじみ、昭ちゃんは帰ってきていなかった。

 8月11日、昭ちゃんの遺体が見つかった、と聞いた。宮崎さんは家を飛び出し、昭ちゃんの家に走った。

 覆いをめくった宮崎さんの目に飛び込んできたのは、変わり果てた昭ちゃんの姿。全身が焼けただれて、目が飛び出ていた。宮崎さんは一目見ても昭ちゃんだとはわからなかった。後に聞いた話では、わずかに残ったゲートルに名前が書いてあり、昭ちゃんとわかったらしい。「熱かったやろね、痛かったやろね」と宮崎さんは語った。

 近くの空き地で木を組み、昭ちゃんが火葬されることになった。火をつける瞬間、昭ちゃんの父が叫んだ。「一人で行かせん!」。火の中に飛び込もうとした。宮崎さんは、その姿が怖くて逃げ帰った。

 宮崎さんは今もその場所を通らないようにしている。どうしても通る必要がある時は、そっと手を合わせて通り過ぎる。

 学徒動員先の工場で自らも被爆した後、幼なじみの昭ちゃんの火葬に立ち会った宮崎さん。やけどで顔がわからなくなった昭ちゃんが今も目に焼き付いている。

 「昭ちゃんはどんな子だったんですか?」と尋ねると、宮崎さんは笑顔で次々と思い出話をしてくれた。

 控えめだった昭ちゃんをいつも宮崎さんがかばっていたこと、宮崎さんが「結婚してやっけん」と言っていたこと、昭ちゃんが新しい消しゴムを買ってもらうと、いつも宮崎さんに半分を分けてくれていたこと、昭ちゃんが手帳を忘れた時には宮崎さんが手帳をちぎってあげたこと、昭ちゃんの鉛筆を削ってあげていたこと……。生きていたら役所勤めでもしていたかな、と思う。

 天国に行ったら、昭ちゃんを捜したいという。「会いたいと言うより、どうしているかなって。(やけどをした)あの顔見てるからね。どんな顔してるかなって思いますねえ」と声を震わせた。

 宮崎さんは戦後、戦争や原爆の…

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