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 東京電力福島第一原発事故をきっかけに、マーシャル諸島ビキニ環礁、カザフスタン、フランスの核被害の現場を歩き、日本やドイツで公開されているドキュメンタリー映画「わたしの、終わらない旅」を制作した坂田雅子さん(68)。福島の事故から5年、原発再稼働を進める日本の核エネルギーのあり方は――。

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核被害の現場を歩く、映画監督・坂田雅子さん

 ほんとうは核と人類は共存できないんだけれども、いかにも共存できるというような「トリック」がずっと行われてきたわけですよね。だまされてきた。広島と長崎の原爆投下やビキニの第五福竜丸などの被曝(ひばく)事件があったにもかかわらず、アメリカのアイゼンハワー大統領が唱えた「原子力の平和利用」、つまり、核と人間は共存できるんだというような考え方が浸透してきた。核っていうのは使い方によっては人類に幸福をもたらす、みたいに言われてきたけれど、そうじゃないんだよってことをちゃんと見極めなきゃいけない。映画では、そういうことを言いたかったんです。

 カザフスタン(旧ソ連)のセミパラチンスク核実験場近くのクルチャトフ市の市長は今も「原爆と原発は別物。原発はきちんと管理すれば環境にやさしい」と言う。日本政府も「核兵器は法律では禁じられていないけれども持たない。原発は再稼働する」。クルチャトフ市長と同じことですよね。福島原発事故のあと、日本人の過半数が「原発はもう続けちゃいけない」と思っているのに、「再稼働OKだ」という人たちはどういうことを考えているのか。原発がなくなっても電気がなくなるわけじゃないってことも分かっているのに。原発のある町の人たちの生活のためだけじゃ動かないはずですよね。

 日本の原発の使用済み核燃料を扱うフランスのラ・アーグ再処理工場の地元の町では道路整備が進み、オリンピック級のプールやプラネタリウムまである。そういう町おこしの陰で、周辺では子どもの白血病増加というデータもあるし、人々は学んでいるはずです。ただ地元にお金が入るからというだけでは、日本でも原発再稼働という話にはならないと思うんですよね。それ以上の何か大きなからくりがはたらいているとしか思えない。

 まず企業の論理ですよね。それから、廃炉のためにも原子力の技術を日本は持っていなきゃいけないと政府はいう。2012年に野田さん(佳彦首相)が「原発ゼロにしよう」としたら、アメリカが反対したでしょ。「原子力の専門家を養成し続ける必要がある」って。世界は原子力ゼロというわけにはいかないんだから専門家が必要だっていうロジックだったんですよね。

 純粋な科学として原子力の研究を進めていけばいいと思うんですけど、政治との線引きが難しい。原子力の平和利用を唱えたアイゼンハワーが大統領を辞める時に軍産複合体の危険性を警告した。その時以上に事態は進んでいて、大学と企業の結びつきも密接になってきているし、純粋な科学研究が軍事利用されないようにする線引きは難しいでしょうね。

 核の問題って、ものすごく難しい。20世紀を変えてきた問題ですよね。私もこの問題を映画で扱いたいと思った時に、私なんかに出来るのか、大きなチームがあるわけじゃなく、ほぼ1人で撮影から編集までやっていますから。大きな壁が目前にある時に、少しずつでも自分の目の前にあるものから削りとっていくより仕方がないじゃないですか。そんな気持ちでつくりました。

【戦争中の発明】

 前作の映画「沈黙の春を生きて」では、ベトナム戦争で米軍が使った枯れ葉剤をテーマにしました。核とすごく似てる。福島で3・11が起きた時、私はその前作の編集の最終段階だったんです。今この映画を作って、だれに何を訴えたいのかと考えたときに、その50年ほど前にレイチェル・カーソンが「沈黙の春」を出版してるんですけどね、化学薬品の乱用の恐ろしさを最初に告発した本がたいへんなベストセラーになった。にもかかわらず、その50年後に枯れ葉剤という化学薬品による大きな災害がまだ起きている。だとしたら、今、農薬だとか遺伝子組み換え食品だとかを許してしまっていることが、50年後に災害をもたらす可能性があることを考えなきゃいけない。そういうことを言いたいと思って(前作を)つくってたんですね。

 ところが、50年後なんて悠長なことを言っていられない、福島の事故が目の前で起きてしまった。レイチェル・カーソンは著作の中で「化学薬品も放射性物質(プルトニウム)も人類が作りだしてしまったもので、どちらも危険な物質である」と言っている。彼女は放射性物質というものを化学薬品と同列視していた。どちらも戦争中に発明されたものですよね。どちらも戦争が終わっても民生利用として使われた。だから、問題はつながってると思うんです。

 人間ができることに対する過信…

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