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第6章:2

 青森地方裁判所への呼び出し期日は、2009年9月1日午後1時20分だった。

 裁判員候補者に選ばれた青森市の牧師、澁谷友光さん(52)は当日、仕事で福島県郡山市に出張していた。集合時間に間に合うように、青森駅に降り立った。

 駅から裁判所に向かうと、近くにはテレビ局の中継車がずらりと並んでいた。地元だけでなく東京からもテレビ局や新聞社の記者が来ていた。裁判所の隣の公園で、候補者であることがばれて一斉にマイクを向けられた。近くには「裁判員制度、反対!」というシュプレヒコールをあげている人たちもいた。

 澁谷さんが裁判員候補者として呼び出された裁判は、全国で3例目、青森県内では初の裁判員裁判だった。しかも、性犯罪事件が対象になるのは全国で初めて。注目度が高かった。

 「こんなに注目されているとは……」。記者の多さに正直、驚いた。

 案内された会議室に入った。すでに受け付けを済ませた33人が待機していた。「これだけいれば、選ばれないな。早く帰れたらいいな」。まだひとごとだった。

 青森地裁は候補者名簿から抽出した100人のうち73人に呼び出し状を発送。このうち、仕事や病気などの理由で33人の呼び出しを取り消した。1人には呼び出し状が届かなかったため、この日、出席義務があったのは39人。実際に地裁に足を運んだのは34人だった。澁谷さんが最後に裁判所入りした候補者だった。

 所定の時間になると、事件の内容がおおまかに説明された。十和田市であった強盗強姦(ごうかん)事件などだった。被害者の女性2人については氏名は伏せられ、事件当時の居住地域と年齢だけが伝えられた。さらに地裁の職員からは、選任手続きで知った内容をメモにとったり、他人に話したりしないように求められた。

 事件のあった十和田市に自分や家族が住んでいたり、働いていたりするなどの事情があるかどうかを聞かれた。その後3人ずつ面談があった。澁谷さんも呼ばれ、「十和田市との関連はないか」などと裁判長から質問された。通常の選任手続きよりかなり時間がかかっていた。

 約2時間半後。部屋に入ってきた裁判所の職員が、抽選で選ばれた番号を読み上げた。その声を一応耳で聞きながら、澁谷さんはパソコンを開いて、仕事をしていた。

 「34番」

 6番目に読み上げられたのは、自分の受付番号だった。

 「えっ?!」。頭が真っ白になった。

 自分に何ができるのだろうか。焦った。こんな「ど素人」に性犯罪という難しい事件を任せるのか。どうしていいかわからなかった。

 選ばれたのは計9人。男性5人、女性1人の裁判員と、男性1人、女性2人の補充裁判員だった。全員が評議室に集められた。

 ここで初めて、事件の内容を詳しく説明された。審理するのは、2件の強盗強姦と、窃盗、窃盗未遂などに問われた計4件の事件だった。

 強盗強姦事件の起訴状は2部ずつ用意されていた。1部は被害者の氏名が記されているもの。もう一部は被害者の氏名は伏せられているものだった。

 裁判長からは、こんな説明があった。「今回は性犯罪を裁く裁判。被害者のプライバシーを考えて資料は2部用意した。みなさんの了解があれば、名前を書いていないものを使いたい」

 それを聞き、裁判員としての責…

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