[PR]

第6章:3

 2009年9月2日。性犯罪を対象にした全国で初めての裁判員裁判が青森地裁で始まろうとしていた。

 全国からの注目度も高く、この日は午前8時ごろから傍聴券を求める列ができた。977人もの人が裁判所前に並んだ。

 そんな騒がしさのなか、裁判員に選ばれた牧師の澁谷友光さん(52)は午前9時前、別の入り口から裁判所に入った。

 前夜はあまり眠れなかった。開廷の時間が迫る中、法廷の扉が開くのが怖かった。どんな人間がそこに立っているのだろうか。被告人と対面することに恐怖心を抱いていた。前日に読んだ起訴状にあった強盗強姦(ごうかん)事件の内容があまりにもひどかったからだ。

 午前10時すぎ、澁谷さんは裁判官3人、ほかの裁判員5人、補充裁判員3人とともに、青森地裁の1号法廷に入廷した。

 目の前に座っていた被告の男性(裁判当時22)はグレーのストライプのスーツ姿。「ふつうの人だ」というのが第一印象だった。この人があんなことをしたのか。事件の内容と被告のもつ雰囲気が釣り合わず、不思議に感じるほどだった。どこにでもいそうな感じの人だった。ただ、体は大きかった。「こういう人に襲われたら女性は怖かったらだろうな」とも思った。

 法壇の席につくと、肝が据わった。落ち着いて法廷内を見ることができた。傍聴席は、報道関係者のほか、抽選にあたった38人の傍聴人でいっぱいだった。

 中に絵を描いている人がいた。いったい何をしているのだろう。不思議に思ったが、翌日の新聞を見てわかった。

 被告や裁判員の様子を伝えるイラストが、掲載されていた。被告や裁判員がいない状態での冒頭の写真撮影しか許されていない法廷内の雰囲気を伝えるために、各新聞社がイラストレーターや画家を雇って描いてもらっているのだ。初めて経験することばかりだった。

 「それでは開廷します」

 男性の裁判長の声が法廷内に響き、初公判が始まった。

 検察官は次席検事以下女性1人を含む4人。弁護側は男性弁護士が2人。

 まずは検察官によって、強盗強姦2件、窃盗、窃盗未遂などの計4件の事件の起訴状が朗読された。その際、裁判長が被害者のプライバシー保護のために、強盗強姦事件の被害者である女性2人の名前をAさん、Bさんと呼ぶことを説明。罪状認否の前にも被害者の名前を口にしないように被告に求めた。

 「間違いありません」。被告は起訴内容を認めた。

 その後、検察側は冒頭陳述で以下のような内容を明らかにしていった。

 被告は就職後、「好きで入った会社ではない」などと仕事に不満を感じてスナックなどに入り浸り、金に困るようになった。2006年7月10日午後9時25分ごろ、十和田市のアパートに窓から侵入、帰宅した女性Aさんに包丁を突きつけて「殺すぞ」などと脅して強姦、さらに現金1万4千円を奪い、「窓が開けっ放しだったよ。自業自得だ」と言い残して逃走した。

 その後、20歳になって自分で借金ができるようになると、銀行や消費者金融などから借金して飲み歩いた。08年には借金が300万円にのぼり、6月7日、同市のアパートの女性Bさん方に侵入し、現金2千円やゲーム機などを盗んだ。

 年末にもらった給料約18万円を年末年始に使い果たし、09年1月7日午後7時ごろ、同市のアパートの男性Cさん方に侵入したが、現金を見つけることができずに、逃走。その足で、以前盗みに入ったBさん方へ向かった。

 同日の午後7時20分ごろ、水道管の凍結検査と偽ってBさん方を訪問。「殺されたくなかったら言うことを聞け」と脅し、Bさんに後ろ手錠をかけて強姦し、現金4万8500円を奪った――。

 「本当にこんなひどいことが起…

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

980円で月300本まで有料記事を読めるお得なシンプルコースのお申し込みはこちら