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第6章:4

 裁判員に選ばれた青森市の牧師、澁谷友光さん(52)は2009年9月2日、初公判に臨んだ。担当したのは、裁判員裁判としては全国で初めての性犯罪事件だ。

 起訴状の朗読から始まり、証拠調べに入り、検察側、弁護側双方の冒頭陳述と進んだ。2件の強盗強姦(ごうかん)事件などを起こしたとされる被告の男性(裁判当時22)の生い立ちが明らかになっていった。

 被告の出生前後に両親が離婚、引き取られた実母も小学1年のときに病死。被告は祖母に育てられた、という。澁谷さんは、犯罪行為への憎しみを感じながらも、被告が感じたつらさや寂しさを思った。

 被告の犯した罪は、被告自身の弱さがあり、悪い考えをもったからだ。だが、だれかと出会っていたら、もしかすると違う人生があったかもしれない。

 「自分は神様との出会いがあって、かろうじて犯罪に手を染めないですんだ。もし、その出会いがなければ、いま何をしているかわからない」。自分の人生を被告と重ね合わせていた。

 澁谷さんは東京・高円寺の生まれ。7歳上の姉と4歳上の兄がいる。3人きょうだいの末っ子だ。自分が生まれる直前に実母との離婚を決めていた実父は家を出た。父には会ったこともなければ、写真を見たこともない。思い出せる父の顔はない。

 昼はビリヤード店の受付、夜は水商売で働いていた実母は、家にいるときはかわいがってくれたが、ほとんど不在だった。食べるものにも困り、ひとつのインスタントラーメンをきょうだいで分け合う状態。でも、たいがいは姉と兄が食べ、「友はいいだろう」と家を出された。幼い自分が近くの商店街を歩くと、近所の人たちに「ごはん食べたの?」と声をかけられ、食べ物にありつけた。

 3歳のとき、実母が子どもを児童養護施設に預ける手続きを始めた。それを知った祖母が親族会議を開き、その後、兄と実母の長姉である伯母に引き取られた。伯母はキリスト者。奈良県で宣教師の手伝いをしながら、幼稚園の先生をしていた。独身だった。

 子ども心に「実母は困っている」とわかっていた。だから、泣いたり、だだをこねたりすると実母が困ると思い、涙をじっとこらえて、奈良へ向かった。

 寂しかった。

 当時、テレビでアニメ「みなしごハッチ」が放映されていた。ミツバチの子どもが生き別れになった母を捜して旅をする物語。「ハッチ」を自分と重ねた。

 被告も同じような寂しさを抱えていたに違いない。

 その後、兄の中学卒業と同時に一家で東京へ。兄は住み込みの仕事に就き、育ての母となった伯母との2人暮らしが始まった。

 実母は再婚して、姉と3人で暮らしていた。実母に対する思いと、洋裁の仕事をしながら育ててくれる伯母への思い。混乱していた。そのころから、万引きやけんかをするようになった。中学に入ると、暴走族に入り、髪を染めて暴走行為を繰り返し、たばこを吸った。かつあげをしたこともある。警察にも何回か捕まった。

 地元の工業高校1年のときには、人にけがをさせる交通事故を起こして、家庭裁判所に呼び出された。育ての母が頭を下げ続けたことを覚えている。

 2回停学処分を受けたが、何とか卒業。同時に、非行からも卒業して、測量会社に就職した。

 非行や暴走行為をしながらも、心の中でどこかでブレーキをかけている自分がいた。それは、中学2年のとき、育ての母に無理やり連れて行かれた夏のキャンプファイアでの「出会い」があったからだ。

 関西から来ていた牧師が、羊飼…

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