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第6章:10

 裁判員を務めてから約2カ月後の2009年11月、青森市の牧師、澁谷友光さん(52)は「ファーザーズ・ネット」という団体を立ち上げた。

 3日間の裁判員経験が、その原動力だ。

 女性を強姦(ごうかん)するなどの事件を起こした被告(裁判当時22)は、父母が離婚し、父親がいない環境で育った。

 被告には、男性としての生き方の模範がなかったのではないか。それがあれば、これほど道を踏み外さなかったのではないか、との思いからだ。

 自分自身も、被告同様、父親がいなかった。結婚したときに非常に戸惑ったことを覚えている。

 「夫って?」。娘が生まれるとさらに戸惑った。「父って何をするんだろう?」。本を読んで、父親像を探した過去がある。

 「みんなで、この町の父親になろう!」

 それが、「ファーザーズ・ネット」の目指すところだ。20代から60代までの男性7~8人が集まった。

 被告が同じスーパーで買い物をしていたかもしれないし、同じ温泉に通っていたかもしれない。どこかで接していたかもしれない。そんな思いから、自分の暮らす町で、市民として何かできないかという思いから動き始めた。

 土曜日、子どもたちと街に出てゴミ拾いをした。戻ってきたら、女性陣が作ってくれたみそおでんを一緒に食べた。大人の男性と話をし、接することも子どもにとっては大切な経験だ。

 最近の子どもたちはいろいろなものがすぐに手に入らないと切れると感じていた。待てない子が多い。それで、畑を借りて、サツマイモの植え付けを子どもたちと一緒にした。

 子どもたちは「まだ? まだ、イモはできないの?」とすぐ聞いてきた。「まだだよ」とイモが育つのを待ち、時期が来たらみなで収穫し、ふかして一緒に食べた。小さなイモを食べるのにも、これだけの手間と時間がかかることを知ってほしいと思ってのことだった。

 被告が借金を抱えて窮地に立ったとき、だれかに相談してみようと思うことができれば、別の道が開けたかもしれない。被告は孤立していた。人とつながる大切さを子どもたちに体験してもらいたいと強く思う。

 妻の久美子さん(55)は、法廷で見せた澁谷さんの涙をこんなふうに見ていた。「自分が(社会に対して)やるべきことをやってこなかったという後悔の涙じゃないかと思った」

 実は久美子さん自身、20代のころ、通り魔の被害に遭ったことがある。午後9時過ぎに、薄暗い土手を歩いていたら、後ろからジョギングの足音が近づいてきた。気がついたら土手から突き落とされていた。

 後ろから首を絞められた。果物…

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