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 今回は、手指にしびれを生じさせる疾患のうち、脳から離れた末梢(まっしょう)神経が原因で起こる「肘部管(ちゅうぶかん)症候群」についてお話しします。

 肘部管症候群は、肘(ひじ)の内側にある尺骨神経の通り道になっている肘部管で、尺骨神経が圧迫されて起こる病気です。尺骨神経は手の小指側の感覚と手の中の筋肉を担当する神経です。

 肘部管症候群の原因の一つとして、「変形性肘関節症」があります。変形性肘関節症は、肘の軟骨がすり減って関節周囲に骨の棘(とげ)ができたり、関節の動きが悪くなったりして痛みを起こすものです。骨の棘で内側から圧迫されることで、肘部管症候群となることがあります。

 他の原因として、10代から40代では上肢の筋肉(上腕三頭筋という、二の腕の後ろにある筋肉や、肘から手首の間にある筋肉)の発達による神経の圧迫もあります。また、小児期に肘関節周囲が骨折した後、内反肘(ないはんひじ)や外反肘(がいはんひじ)という変形が残ることによっても起こります。外傷後数年の時間が経過してから起こる尺骨神経の麻痺(まひ)を、「遅発性尺骨神経麻痺(ちはつせいしゃっこつしんけいまひ)」とも呼びます。

 肘部管症候群の主な症状としては、初期には手の小指から薬指の小指側半分までのしびれや痛みがあります。尺骨神経は指の手のひら側と、手の甲側の両方に分布しているため、指全体がしびれるのが特徴です。時には、肘から手首までの内側の痛みを伴うことがあります。

 進行すると手の筋肉が痩せて、手の変形が目で見てわかるようになります。肘部管症候群で生じる手の変形を、「鷲手(わして)変形」と言い、指を伸ばそうとすると薬指と小指が完全に伸ばせなくなります。箸が使いづらい、小銭がつまみづらい、といった症状が出ます。

 診断を受けるには、整形外科を受診し診察してもらうことが重要です。診察で、肘の内側をたたくと指先にしびれが走る「ティネル様徴候(ちょうこう)」の有無を確かめます。手の筋肉が痩せると、指をそろえたり、薬指と小指を伸ばしたりすることができなくなり、鷲手変形となります。

 肘部管症候群の患者さんの場合、親指と人さし指の間で紙を挟んでもらうと、親指の関節が曲がる「フローマン徴候」がみられます。

 症状が悪くなる姿勢をとって症状を確認する「誘発テスト」としては、肘関節を屈曲させるとしびれが増強する肘屈曲テストがあります。感覚の検査として、ナイロンの糸で指をつついて感覚を確認する検査「セメス―ウエンスタイン検査」を行うことがあります。画像の検査としては、変形性肘関節症の有無を確認する肘のX線検査や、腫瘍(しゅよう)やガングリオン(良性の腫瘍)などが疑われる場合のエコー、MRIがあります。

 診断を補助する検査としては、「神経伝道速度検査」があります。障害が起こっている尺骨神経に直接電気をかけ、小指が動くまでの時間を測定する検査です。この検査で、電気の流れに障害がある場合は、症状が進行していると判断します。

 治療はまず、鎮痛剤や肘の安静などの保存的治療を行います。保存的治療で改善しない場合や、麻痺が進行している場合には手術を行います。

 手術方法はいくつかありますが、最も行われている手術は、肘部管を構成している硬い靭帯(バンド)を切開し、神経を前方の軟らかい組織に移動する「尺骨神経前方移動術」です。肘部管周囲にガングリオンがある場合は、これを切除します。肘関節の変形がある場合、変形を治す手術を行うこともあります。

 手のしびれは、同時に複数の原因から生じることがあるため、正確な診断のためには早期に整形外科での診察をお勧めします。

<アピタル:弘前大学企画・骨と関節の病気 予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/

(弘前大学大学院医学研究科整形外科学講座助教 上里涼子)