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就活する君へ

 世界トップクラスの囲碁棋士を破るなど、目覚ましい進化を続ける人工知能(AI)。自動運転や自動翻訳が当たり前になった時、私たちの働き方はどう変わるのか。東京大学の松尾豊・特任准教授(人工知能)に聞いた。

一人ひとりが起業家に

 ――人工知能の普及によって、仕事のあり方はどう変化していくのしょうか。

 「自動車の運転のような単純作業や、パターン化しやすい会計処理などは人工知能に置き換わっていく可能性が高いです。過去の情報を分析し、類似した事例を見つけるような仕事、たとえばアナリストやパラリーガル(法律事務)なども同様でしょう。

 教育で言えば、どんな問題でミスが多いのかという分析は、ビッグデータに基づいて人工知能がおこなった方が効率がいい。学校の先生の役割は、生徒を励ましたり、わからないところを一緒に考えてあげたりすることになっていくはずです」

 「医療も一緒で、病気の診断は人工知能がおこなう。ただ、どんな治療法を選択するかについては、医師が患者さんと一緒に考えるしかない。手術をするのか、抗がん剤治療をするのかは、単に『生き残る確率は何%』というだけの話ではなく、価値観の問題ですから」

 「何が重要で、何が重要でないか。また、感情や本能に関することは、人間の領域として残されるでしょうね。人と接する仕事は、ますます重要になると思います」

 ――専門職以外のサラリーマンではいかがですか。

 「アシスタントではなく、コンサルタントの比重が高まっていきます。マネジャーと言い換えてもいいです。総合的な判断を行い、責任をとる。従来は経営者など組織の上の方の人たちが担ってきたことを、みんながやらないといけなくなります」

 「一人ひとりが、起業家や個人事業主のような働き方をするようになる。一つのスキルや知識だけで一生食べていくことはできません。絶えず学び続け、機会をとらえて事業化していくセンスが必要になってきます」

自動翻訳で世界はガラリと変わる

 ――注目している人工知能の技術は。

 「10~15年以内に自動翻訳が実現される可能性があります」

 ――現在のネット翻訳はまだまだ精度が低い印象ですが、そんなに早く改善されるのでしょうか。

 「従来の人工知能は、英語と日本語の文字列を統計的に計算して変換していただけで、意味を理解していなかった。いま研究が進んでいるのは、言語から映像を生成し、その映像から別の言語に訳す技術。映像を介することで『意訳』が可能になるんです」

 「技術的には5~10年でできると踏んでいますが、実用化に要する時間も含めて『10~15年』と言っています。実現すれば、世界のどこでも学び、働けるようになります」

 ――時代を画するような大変革じゃないですか。

 「ビフォー自動翻訳とアフター自動翻訳とで、世界はガラリと変わりますよ。その頃には私もパリに住んでいるかも(笑)。ただ一方で、日本語という参入障壁がなくなり、世界中の人と闘わないいけなくなる。良い面と悪い面がありますね」

 ――松尾さんが人工知能の世界を志したきっかけは。

 「高校時代は理系で、物理や数学が好きでした。物理とか数学っていうのは、人間の認知がつくり出しているもの。そこから『人間の認知の仕組みって何なんだろう』と興味を持ちました。まさに『我思う、ゆえに我あり』の世界です」

 「元々、人工知能と認知科学は、非常に近い領域にあります。人間が世界を認識する仕組みを人工的につくりましょう、というのが人工知能なんです」

 「大学に進んで、まだ人工知能が完成していないと知り、『ラッキー』と思いました。すでにできあがっていたら、自分がやれることも限られる。できるだけ競合の少ない新しい領域を開拓しようと、早くからソーシャルネットワークやデータマイニング、ディープラーニングといった分野に取り組んできました」

HPギリギリまで働き、経験値を稼ぐ

 ――仕事をするうえで大事にしていることは。

 「ドラクエとかのゲームだと、HP(ヒットポイント)がギリギリになってから宿屋に戻って体力を回復しますよね。だから私も、ギリギリまで仕事をしてから寝るようにしています。その方が効率がいいですし、でないともったいない感じがしてしまうんです」

 ――就活生はじめ、若い人たちにアドバイスをお願いします。

 「迷ったら、『人工知能が勝つ方に賭けろ』と言いたいですね。同じ業種で人工知能を活用している企業と、そうでない企業であれば、前者を選んだ方が勝つ可能性が高い」

 「あとは、ゲームと一緒で、若いうちはひたすら経験値を稼いでレベルを上げること。今後、人工知能による革命的な変化が起こってきます。これは若い人たちにとっては有利です。どんどん世界が変わってもいいように、いまのうちから自己投資をしておくことが大切です」

東大生の「親ブロック」

 ――時代の変化に備え、変わることを恐れない。

 「そうです。ゲームだって、1面をクリアしたら2面に行きたいじゃないですか。変化があった方が楽しいですよ」

 「問題は親なんです。学生が起業してうまくいっているのに、親が『頼むから大手の○○商事に行ってくれ』と言う。人工知能の分野で有望な学生が、『親を悲しませたくないから』と有名な広告会社に就職する。お父さんお母さんからすれば、自分が生きている間は子どもが不幸な目に遭うところを見たくないんでしょう」

 ――「親ブロック」ですか。

 「ええ。東大生の親ブロックはすごいですよ。とはいえ、これは個々の価値観の問題ですから、私としても『親の言うことなんか聞かなくていい』とは言えません」

 「そこで考えたのですが、名前の通った大手企業が、起業を目指す若手に『名義貸し』をする制度はどうでしょう。3年の間、その会社の社員と名乗っていいことにするんです。給料は出さず、名前だけでも構わない。3年挑戦してダメなら、その会社に入社することも選べるようにする」

 「これなら親も安心です。企業側もそのベンチャーを買収するとか、選択肢が広がりますよね。起業がダメだった場合でも、経験を積んだ優秀な人材を雇えばいいじゃないですか」

 ――就活生の親に伝えておきたいことは。

 「子どもの幸せを願う親御さんの気持ちは、よくわかります。ただ、いまの時代に絶対安全ということはありません。冒険する方がよっぽど安泰かもしれない。ですから、親ブロックはほどほどに、ということですね」

     ◇

 まつお・ゆたか 1975年、香川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、2002年に同大学院博士課程修了。2014年より現職。専門は人工知能やウェブ、ビジネスモデル。人工知能学会の倫理委員長も務める。著書に『人工知能は人間を超えるか』など。(神庭亮介)