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 2025年――。戦後のベビーブーム(1947~49年)の間に生まれ、小説のタイトルにもなった「団塊の世代」がそろって退職し、地域に、家庭に、かえってきた。医療や介護が必要な75歳を超えるかたまりを迎え、県内の高齢者のみの世帯は69万、高齢一人暮らしの世帯は34万に迫ると推計されている。いまから9年後。そのとき、私たちの暮らしはどう変わるのだろうか。

 「団塊の世代」の多くは高度成長期、東京都心で働いて経済の活況をささえた。一方で地価が比較的安い郊外に居を構え、家庭を築いた。

 埼玉県内に住む「団塊」は約37万人。文字どおり、県人口730万人の世代別で、もっとも大きな比率を占めている。

 2025年、「団塊」が会社を退職し終えると、埼玉県は3大都市圏の中でも群を抜くペースで75歳以上が増加する。10年と比べて、75歳以上は倍の117万7千人になる――。埼玉の「老いる将来」の予測は、「2025年問題」と呼ばれるようになった。

 「老老介護」を苦にした殺人事件、地域社会の真ん中で死後数日たって見つかる「孤立死」。すでにひずみは現れ始めている。

 県は高齢者にいつまでも元気でいてもらおうと介護予防に力を入れるが、将来の課題に今どのように手を打てばよいかは手探りだ。

 県の人口は昨年、過去最多を記録したが、これをピークに今後は減少に転じる。高齢者の割合が増え、15歳未満の将来の働き手は減っていく。「都市が老いる」時代にどう備えればいいのか、読者といっしょに考えていきたい。

つかず離れずの共同生活

 夕食を終えた午後7時過ぎ。リビングに置かれた食卓に「住民」6人が集まってきた。月1回の「自治会」の始まりだ。

 消防設備点検や催し物の事務連絡を受けた後は、夕食の話題に。「正月の鍋に入っていたカニは身が少なかった」「少し味が薄かった気がする」。30分ほど話した後は、めいめいに自分の居室に戻っていった。

 新座市にある「グループリビングえんの森」。2011年9月にできた木造2階建て住宅で、65~91歳の女性8人が共同生活を送る。いわば、高齢者の「シェアハウス」だ。

 共用の玄関をくぐり廊下を抜けると、約35畳のリビング。ここでピアノの演奏会や近隣の人を集めた認知症カフェを開くこともある。ミニキッチンつきの居室(約16畳)が10部屋のほか、サークル活動などを行うアトリエも二つある。

 決まりは一つ。夕食はリビングで一緒に食べる、ということだけ。ほかのルールは住民が話し合い、知恵を出し合って決めてきた。

 運営主体はNPO法人「暮らしネット・えん」。もともとは訪問介護や認知症グループホームなどを運営する事業者。「えんの森」の隣で運営しているため、「いざというときの安心感」がある。

 昨年、高齢夫婦のみの世帯が2割に達した埼玉県。親子二~三世代を基本とした家族形態が大きく姿を変え、公的サービスだけで生活を維持できるか。高齢期を迎えた個人が助け合いながら一つ屋根の下で暮らす「グループリビング」のように、新しい形態の住まいの模索が広がりつつある。

 「高齢者住宅といっても、ここは本当に自由。プライバシーもきちんと保たれている」。安岡芙美子さん(71)は満足そうに話す。朝霞市内での兄世帯との暮らしに見切りをつけ、開設と同時に移り住んだ。

 安岡さんの日々は忙しい。大学で老人福祉論を教えていたこともあり、いまも研究会に参加し、夜中までパソコンに向かう。60代になってピアノも始めた。

 「えんの森」の入居条件は原則60歳以上。身体的な障害があったり、介護が必要な状態だったりしても自分の意思が伝えられれば入居できる。「いずれ体が動かなくなったときを考えると、備えが必要だと思っていた。でもルールには縛られたくはない。つかず離れずの関係をかなえられるのが、ここでした」

 暮らしネット・えんの代表理事、小島美里さん(64)の言葉が印象的だった。「グループリビングは、高齢期の住まいを考える実験場なんです」

 「高齢住まいの実験」とは? まずは「えんの森」の生活を見ていこう。

◆高齢者の住ま…

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