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 不意の地震に、家の下敷きになるなどして、熊本県の9人が命を奪われた。親族らは悲しみにくれた。

 亡くなった富田知子さん(89)=益城(ましき)町寺迫=は倒壊した自宅の中から見つかった。2階建ての家は地震で大部分がつぶれた。周りではガラスが割れたり、ブロック塀が倒れたりの被害はあったが倒壊した家は少ない。「なんであそこだけ爆弾かなんか降ってきたみたいに」。親戚の女性(60)は言葉を詰まらせた。

 富田さんは学校の先生をしていたという。「いつも笑顔で優しい人だった。昨日も一緒に施設に行ったのに」と近所の女性(88)。次男(62)は救助活動を見守りながら無事を願ったが、かなわなかった。「人間の力では止めることができない。どうしようもなか。天災です。そう思わざるを得んでしょう」

 伊藤俊明さん(61)=同町広崎=の2階建ての家も崩れ落ちた。2階にいた兄は、1階で洗濯物を干していた伊藤さんの「助けて」という声を聞いた。「がんばれ! しっかりしろ!」。妹らと呼びかけ、がれきを引き上げると、伊藤さんの頭が見えた。救急隊が駆けつけて救急車に収容したが、「病院には行けません」。救急隊の報告に妹は号泣したという。

 荒牧不二人(ふじと)さん(84)=同町惣領=が妻と長男と暮らす家は2階が1階を押しつぶすように崩れた。長男と近所の5~6人が救助を試み、妻を助け出した。さらにがれきの間をのぞく。「見えた!」。だれかが叫んだ。救助隊がチェーンソーで、はりなどを切断。親族の男性(67)が荒牧さんのベルトをつかみ、みんなで引き上げたが、すでに息をしていなかった。

 精米業を営み、30キロの米袋を軽々とかついで配達に回っていたという荒牧さん。「よか人やったんですけどね」。ベルトをつかんだ右手を見つめ、男性は目を赤くした。

 亡くなった福本末子さん(54)=同町安永=は夫と娘、夫の両親との5人暮らし。地震の時は福本さんと夫の両親がいたという。真っ暗な中、近所の人ら約10人がバイクのライトで手元を照らし、がれきを取り除いた。1時間ほどして救急隊が到着。両親は病院に搬送されたが、福本さんは助からなかった。隣の女性(64)は「あんなに明るい人が亡くなったなんて」。

 松本由美子さん(68)=熊本市東区=は体の不自由な夫と2人で暮らしていた。自らも病気で足が悪かったが夫を献身的に支えていたという。近所の男性は「愛嬌(あいきょう)があっていつもニコニコしていた」。地震後、心配した義弟が松本さんの携帯電話にかけると、病院の医師が出て、亡くなったことを告げられたという。

 亡くなった村上ハナエさん(94)、正孝さん(61)親子=益城町木山。2人を知る近所の男性(67)によると、正孝さんはタクシー運転手をしながら、妻と2人でハナエさんを介護していた。遺体は親子2人が並んだ状態で見つかったという。男性は「親孝行の正孝君のことだから、お母さんを守ろうとしたのかな」。

 坂本龍也さん(29)=熊本市東区=は弁当店に勤め、店長に昨年昇格したばかりだった。交際していた益城町の女性宅で犠牲になったという。兄の辰徳さん(34)は「仕事の愚痴は言わず、まじめだった。まだ今からというときに……」と言葉を詰まらせた。

 亡くなった宮守陽子さん(55)=益城町馬水=は、自宅1階で長女(23)とテレビを見ている時に地震に遭った。1階部分がつぶれたが、親族によると、ソファに座っていた長女は、落ちてきた天井とソファの間のすき間から自力で脱出したという。一方、窓際に座っていた宮守さんには、天井や壁の重みが直接のしかかってきたとみられる。救助を待つ間、「私が助けに行く」という次女(20)を親族らが止めた。現場で宮守さんの死亡が確認された瞬間、2人の娘は泣き崩れたという。

 宮守さんは夫を6年前に亡くした。女手ひとつで2人の娘を育て上げ、次女が今年成人式だった。「人生の楽しみはこれからだったのに」。近所に住むいとこ(52)は涙を浮かべた。

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 写真は、遺族や関係者から提供いただきました。