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 揺れで目が覚めると、横で寝ていた1歳4カ月の長女の体が、ふっと宙に浮いていた。熊本県南阿蘇村の高野台地区に住む古沢精一さん(39)は、16日未明の激しい揺れを振り返った。

 14日夜の揺れの後、夜でもすぐに身を守れるよう、寝室の押し入れを空にしていた。布団から手が届きそうな距離。娘を抱えて押し入れに向かおうとするが、なかなか前に進めない。「自分の足じゃないみたいだった。どやんかこやんか娘を安全な場所にと思って必死でした」

 妻と娘を押し入れに入れている最中、部屋の棚や物が落ちてきた。揺れが収まって家族3人で外に出るとガスの臭いが充満し、電線が垂れていた。同じ並びにある数軒の家は裏山の土砂に埋まっていた。「本当に恐ろしい一晩だった」

 近くにある東海大の阿蘇キャンパス。熊本県警によると、学生たちが住むアパート6棟で1階部分がつぶれ、3人が死亡した。

 同大農学部2年の南條志歩さん(19)はアパート(木造2階建て)2階の部屋から、倒れた家具をかき分け、外に出て驚いた。玄関先が地面だった。

 「ここにいるよ」「助けて」。1階部分から男子学生たちの声が外へ響く。「大丈夫ですよ」。南條さんらは外から声をかけ続けたが、余震で近づけない。そばでパジャマ姿の女子学生が震えて泣いていた。

 アパートは築20年以上で、男女11人の学生が住んでいた。1階で寝ていた同大農学部1年の中島勇貴さん(18)は、倒れてきた壁と布団に挟まれて身動きがとれなくなった。余震のたびガンガンと音が響き「これで死ぬのか」と思った。

 しばらくすると、警察や救急隊が到着。余震があると「退避!」の声が飛ぶ。中島さんは午前8時ごろに救出された。しかし、午後3時半ごろ、左隣の部屋に住む同じ学科の先輩は無言で運び出された。中島さんは「明るくて面倒見のいい先輩だったのに」と声を詰まらせた。

 熊本県警高森署に現場周辺のアパート倒壊の情報が入ったのは、16日午前2時10分ごろ。無料通話アプリLINEで学生から連絡を受けたという母親の「子どもがアパートの倒壊で閉じ込められている」という通報で、署員3人が現場に向かった。

 ふだんは車で15~20分あれば着くが、道路は寸断されていた。回り道をし、腰にロープをつけて亀裂の入った橋も渡った。

 東海大キャンパスから東に1キロほどの沢津野地区で暮らす増田敬典さん(78)も16日未明、突然目が覚めた。何かが次々に落ちてくる衝撃を布団越しに感じた。「家が崩れる。逃げろ」と声がした。必死ではいつくばり、屋外に出た。

 妻フミヨさん(79)は倒壊した家屋の下敷きになって見つかり、死亡が確認された。15日に東京の孫に会いに行くはずだったが、14日夜の地震の影響でキャンセルに。再び大きな揺れに遭ったのはそんなタイミングだった。「運命かな。そう思わないと(気持ちの)整理がつかない」。妻を安置した公民館前の階段に座り、つぶやいた。

 増田さんの集落から南に約1キロの温泉宿泊施設「ログ山荘火の鳥」は、土砂崩れで2人の行方がわからなくなった。背後の山が幅50メートルほどにわたってえぐられ、宿泊棟6棟のうち3棟が土砂で押し流された。元経営者の男性(82)によると、流された宿泊棟のうち1棟には、香川県から来たとみられる男女2人が泊まっていたという。

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 阿蘇地方では、幹線道路をつなぐ阿蘇大橋が崩落し、阿蘇神社では楼門が倒壊した。周辺の道路は所々で土砂崩れにより寸断された。

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 〈阿蘇の地質〉 古い火砕流の堆積(たいせき)物や火山灰の地層で覆われており、時に崩れやすく流動化しやすい特徴がある。2012年には豪雨による土砂災害が発生し、犠牲者が相次いだ。古い火山灰層は水を通しにくく、大雨の際にはこの層の上に水がたまり、表層の斜面が崩れやすくなるとされる。地震後に雨が降れば、さらに崩れやすくなる可能性が高い。