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「今夜はオムツで寝ること」

(母の介護のため通った介護教室の先生に言われた言葉)

 介護教室の初日のことだった。「今夜はオムツで寝ること」。先生は平然とそう言って生徒にオムツを配り始めた。受講者の中で、唯一の男性だった私にも、無論、例外などある訳なく、翌日までにそのリポートを提出するようにと指示があった。

 8年前、定年間近で独り者の私が、仕事を辞めてこの教室を受ける決心をしたのは母が認知症を発症したからだった。

 さかのぼること半年、傘寿を過ぎた母は、尻餅をついた際の腰椎(ようつい)圧迫骨折で2カ月間入院した。その間、病室の白い天井を見ているうちに、立派な認知症患者になっていたのだ。

 退院して家に戻った。ある日、いきなり「ベッド周りの草を刈れ」と言い出して私を戸惑わせた。自分が寝ているベッドの周りに草が生えているのが見えているようなのだ。さらに「草むらに財布を落としたから捜すように」と始終命令するようになった。

 私のオムツリポートは、中身の濃いものになった。

 まず、寝たままの姿勢で排泄(はいせつ)することの苦しさ、うんちやおしっこの後、それらが次第に冷ややかになる違和感、そして、用済み後のオムツの何たる重量感等々、替える側、替えられる側に立ち、気づいたままを書き連ねた。

 今、振り返ると、形ばかりの教室の多い中、あの先生は実に立派だったと思う。のっけから介護者を一刀両断し、相手の身になることをたたき込んだのだ。

 しかし、正直に言うと母のオムツを替えるのはいまだに私の苦手の一つとなっている。温かいペットボトルのお湯で洗うのさえ苦手なのに下痢や軟便となるとつい舌打ちさえしてしまう。

 できるだけヘルパーさんの来る直前に排泄していますようにと食事の時間も調整している始末だ。

 つくづく男の母親介護は難しいと思いつつ、「ヨーシッ!」と掛け声で鼓舞して今日もオムツと格闘している。

「今夜はオムツで寝ること」と言われた不意打ちを思い出しながら。

◆福岡県 宮木慎次郎さん(63)

(宮木さんが通った教室は「ヘルパー2級養成講座」。2013年度からは制度が変わり、「介護職員初任者研修」となっている。)

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 朝日新聞文化くらし報道部「介護 あのとき、あの言葉」係

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