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 熊本地震では、避難所や車中泊の生活で、「エコノミークラス症候群」(肺塞栓(そくせん)症など)の患者が相次いでいる。重症化を防ぐには足の静脈にできた血栓の早期発見が大切だ。長期的にもフォローが必要になる。心筋梗塞(こうそく)などほかの心臓病にも気を配ることも重要だ。

 

運動や水分こまめに

 熊本市民病院の医師ら約15人のチームが25日、熊本県益城町と熊本市の2避難所を回った。超音波検査で足の静脈に血栓ができていないか調べると、約60人の1~2割から見つかった。

 熊本市内の小学校に避難している古荘チヅエさん(80)もその一人。右足に血栓が見つかった。床にマットを敷き、寝ている。腰が悪く、起き上がるのがつらい。あまり運動もできず、朝、ラジオ体操をした後はトイレと寝床を往復するくらいという。

 この日、医師から足首を動かす運動や水分補給の大切さを助言され、もらった予防効果のある弾性ストッキングをはいた。古荘さんは「これをはいて、水分もとる。運動ももう少ししたほうがいいわね」と自分に言い聞かせるように話した。

 「エコノミークラス症候群」には、ふくらはぎなど主に足の静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」と、できた血栓がはがれ、血流に乗って肺の血管をふさぐ「肺塞栓症」がある。命にかかわる肺塞栓症を防ぐには、血栓を早く見つけることが何より重要だ。

 日本大板橋病院の前田英明・血管外科部長によると、血栓はこまめに水を飲み、歩いたり運動したりすることで自然に溶ける場合がある。しかし一度足にできると再発しやすい。溶けずに残って次第に大きくなると、例えば1年後に血管からはがれ肺の血管を詰まらせることもあるという。

 新潟大の榛沢(はんざわ)和彦講師(心臓血管外科)らの調査では、2004年の新潟県中越地震の被災地で、地震7日後に初めて検査を受けた被災者の35%から血栓が見つかった。1カ月後は13%に下がったが、5カ月後には21%に増加した。1年後に初めて検査を受けた被災者で血栓がみつかったのは8%だった。

 前田さんは「仮設住宅に移ったり、普段の生活に戻ったりしても、足のむくみや痛み、息苦しさなどを感じたら、早く医療機関を受診してほしい」と話す。治療が必要と判断されれば、血栓を溶かす薬を点滴したり、血栓をできにくくする薬を飲んだりするという。

(富田洸平)

 

胸の痛み、息苦しさも

 長引く避難生活で注意が必要なのは肺塞栓症や足の静脈の血栓だけではない。

 大きな地震で被災した人たちは精神的、身体的なストレスを受け、急性心筋梗塞(こうそく)、心不全なども増える。熊本地震でも同県阿蘇市の避難所にいた女性(77)が急性心不全で亡くなり、震災関連死とみられている。

 心筋梗塞などが起きたらすぐ治療する必要がある。熊本大の掃本(ほきもと)誠治准教授(循環器内科)によると、同大病院で14日の地震発生から20日までに急性心筋梗塞は3人。「余震が長く続いていることがストレス感を強めている」とみる。急な胸の痛みや圧迫感、息苦しさなどを感じたらすぐに受診してほしいという。

 新潟県中越地震の後に多発し、注目されたのが「たこつぼ心筋症」。心臓が異常に収縮した時の形が、上の方がくびれる「たこつぼ」に似ている。新潟県長岡市の立川綜合(そうごう)病院などのまとめでは25人がこの病気になった。熊本地震でも患者が出ている。

 過度のストレスなどによって、心臓の筋肉の一部が収縮しにくくなり、正常に血液を送り出すことができなくなる。症状は急性心筋梗塞に似て、胸の痛みや圧迫感、息苦しさ。急性心筋梗塞が男性に多いのに比べて、たこつぼ心筋症は高齢の女性に多いのが特色だ。

 中越地震で診療した同病院の佐藤政仁・循環器・脳血管センター副所長は「約2週間で回復する人が多いが、不整脈や心不全が起きないように対応が必要。循環器の専門家による診療を受けてほしい」と話す。

 不整脈の一種「心房細動」などの持病がある人は、心臓で血栓ができ、脳の血管に飛んで脳梗塞をおこす恐れもある。循環器疾患に詳しい東大病院老年病科の秋下雅弘教授は「いままで抗血栓薬を使っていた人で、薬を持ち出せずに飲めていない状態が続いていたら、お薬手帳がなくても早く救護所や医療機関に行って相談してほしい」と注意を呼びかける。

 

<アピタル:もっと医療面・その他>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/iryou/

(浅井文和、寺崎省子)