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「……辞めるんか」

(勤め先の介護施設で認知症の女性から言われた言葉)

 40代になって介護の仕事をはじめ、もうすぐ一カ月になろうかというころ。

 落ち着きを失った認知症のおばあさんに、「付いててあげて」と指示されたものの、何の手練手管があるわけでもなく、黙ってただ隣に座るだけ。

 相手が何を求めているのかわからず、こたえることができず、自分に介護は無理なんじゃないか……と思わずため息をついたら、そのおばあさんが何の前振りもなく、松山のイントネーションでこう言いました。

 「仕事は、一カ月くらいしたら、慣れるな」

 確かに私は、もうすぐ一カ月。

 ほぼ毎日お世話申し上げましたが、家族の顔さえ怪しいのに、私を覚えてもらっているとは思えない。

 というか、そもそも私の話をしているのか、わからない。

 でも、もしかしたら……と思い、ちょっとひねりを入れてみました。

 「私、もうすぐ一カ月なんですよ。でも、なかなか慣れませんね」

 おばあさん、無表情のまま3秒ほど考え、「……辞めるんか」

 確信突いた(笑)! わかってるかもしれない!

 それならば、と更にひねりを加えてみました。

 「辞めてください、って言われちゃうかもしれない」

 おばあさん、今度は5秒ほど考えて、「……辞めたら、中途半端になるな。辞めんほうがええよ」

 わかってないかもしれない。でも、わかってるかもしれない。わかってなかったとしても、嫌いな人には言わないだろう。

 要介護5で、時にひっかかれ、時に悪態をつかれ、正直大変に手のかかるおばあさんではありました。

 しかし、手慣れて手際がいいだけではない、私の介護には何か良いところがあったのだと、元気をなくした私に何かしたいと思ってもらえたのだと、大いに励まされました。

 介護は確かにきれいごとだけではない、重労働ではありますが、そこだけがクローズアップされることには違和感を覚えます。

 現在は事情があって退職しましたが、面白かったなぁぁ、介護。

◆神奈川県 40代女性

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 朝日新聞文化くらし報道部「介護 あのとき、あの言葉」係

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