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第7章:5

 目の前に刃渡り20・4センチの筋引き包丁がある。自宅の台所にもありそうな、ふつうの包丁だ。ケースに入れられ、直接触ることはできないが、刃にはまだ血がついていた。

 川崎市で3人が殺害された事件の裁判員を務めた米澤敏靖さん(27)は、休憩時間のときに評議室で凶器とされる包丁を間近に見て、その生々しさに身震いがした。

 2011年6月2日、初公判は冒頭陳述の後、証拠調べに移った。法壇には2人に一つのモニターが設置され、3人が殺害された川崎市内の現場や遺体の写真がカラーで映し出された。遺体全体と傷口周辺のものなど、亡くなった3人がそれぞれ映っていた。

 血を見るのは平気な方だと思っていた。実際、大丈夫は大丈夫だったが、結構衝撃的だった。とにかく生々しいかったのだ。

 隣に座る「2番」の裁判員の女性は目を背けていた。法廷では目の前に被害者遺族がいる。彼らの目も気になった。

 「ひとつの証拠として、ちゃんと見なくてはいけない」。そう自分に言い聞かせた。同時に、こうも思った。「公平に判断するために、感じてはいけない。かわいそうだとか、ひどいとか思ってはいけない」と。ただただ証拠として、写真に目をやった。裁判員としては「公平な目」が大切だと考えていた。

 緊張があったのかもしれないが、額から汗が噴き出てきた。タオルをしきりに顔に運んだ。

 法廷は蒸し暑か…

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