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第7章:8

 「犯人は消えてください」

 その言葉は、横浜地方裁判所で裁判員を務めていた米澤敏靖さん(27)の心に突き刺さった。

 2011年6月9日、川崎市でアパートの大家ら3人が殺害された事件の裁判員裁判は第6回公判を迎えていた。証言台に立っていたのは、被害者の孫の女子高校生だった。

 彼女は、おばあちゃんとの思い出を話した。「おばあちゃんが大好きで毎日のように会いました」。やさしそうな印象だった。

 だが、最後に「絶対に許さないぞ」という表情になり、極刑を求めた。言葉のひとつひとつに憎しみがこもっていると感じた。証言したのが女子高校生だっただけに衝撃が大きかった。

 「ズキッときた。完全に同情の方に動きました」

 この日は、遺族8人が出廷して意見を陳述、もうひとりについては書面が朗読された。

 殺害された大家の妻は夫の悲鳴で現場に駆けつけ、口や胸からあふれた血をふき続けたという。妻は「夫は刺されたアパートの玄関先から、ふらふらになりながら5メートルほど自宅の方に戻って来た。私と娘を守ろうとしたに違いない」と声を震わせた。「事件の日から私たちの時間は止まったまま。被告には命乞いをしないで、あの世で夫に謝罪してほしい」と述べた。

 大家の長女は「父さんを返せ、父さんを返せ」と叫んだ。次女は、命で償うしかないと被告が法廷で話したことに触れ、「心から謝罪してほしい。死ねば終わりという開き直った態度だ」と非難。「罪の重さを自覚して、命で償ってほしい。でも、そう望む自分も嫌な気持ちになった。被害者が被告の死を願うような事件が一件でも減ることを願う」などと述べた。

 大家の弟夫妻の長女は「私のことを一番に考えてくれる父、仕事に家事に一生懸命だった母だった」と語り、「私はあのアパートで育った。両親は40年暮らし、トラブルなんて一度もなかった。被告が息をしていることすら許せない。極刑以外望みません」と訴えた。

 全員が極刑を望んだ9人の遺族の意見陳述の間、被告の男性(当時59)は顔色ひとつ変えなかった。

 実はこの裁判、後に米澤さんが属することになる「裁判員経験者によるコミュニティ(LJCC)」(事務局・東京)の世話人、田口真義さん(40)が連日傍聴していた。自らも裁判員を経験し、ほかの裁判員裁判を見たいと、通ったのだ。

 蒸し暑い法廷の中で、フェースタオルを片手に汗を拭きながら、懸命に耳を傾けていた若い「1番」の裁判員、つまり米澤さんのことが印象に残っているという。「ただ若すぎて、弁護人が被告の恵まれない生い立ちなどを訴える意味がわからないのではないかとも思った」と振り返る。

 この田口さんが気になったこと…

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