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(水ナス:1)

 大阪の夏の野菜といえば、水ナスである。丸ごと浅漬けにして、手で割いて食べる。さっぱりとした風味があり、何ともみずみずしい。食欲が落ちるこの季節には、ぴったりである。

 大阪府南部の泉州地方で、水ナスの収穫がピークを迎えている。主産地の一つである貝塚市の中出農園を訪ねた。

 午後5時。ビニールハウスの気温はまだ30度を超している。ムッとして息苦しい。畝(うね)の長さは約60メートル。約1500本の水ナスがずらりと並んでいる。

 真っ黒に日焼けをした中出家の長男庸介さん(32)が、ハウスの一角にある注水機のバルブをゆるめた。水は畝の上に張り巡らされたチューブを伝って送られてくる。「水ナスが、どこまで暑いと感じていて、水を求めているのか。その顔をつかむのが大切。人が感じる暑さと違うので簡単ではありませんよ」

 庸介さんは高校野球の元球児だ。大阪桐蔭高校の左の代打の切り札だった。最後の打席も、30度を超える真夏日だった。

 2001年夏の大阪大会準々決勝。相手は強豪・上宮。3点のリードを許して迎えた二回、庸介さんの打球は高いバウンドとなり投手の頭上を越えた。二塁手の好守でアウトになったが、三塁走者が生還。その後、逆転する最初の得点となった。

 チームは決勝まで進んだが、上宮太子に敗れて夏は終わった。だが、高校球児の3年間は大きな糧になったという。

 寮生活は朝が早かった。掃除、洗濯も自分でこなした。そして、農作業をしながら家族の食事づくり、洗濯を担う母明代さん(56)の苦労に気づいた。

 「自分が助けたい」。肩を痛めたこともあり、04年、野球を続けるために進学した大阪産業大学を2年で中退して、水ナス農家を継いだのだった。

 畑仕事の朝も、早い。起床は午前3時半。両親らと紺色に色づいた水ナスを手で一つずつ収穫する。皮が薄く、葉にこすれるだけでも傷つくので神経をつかう。多い日は1日で5千個。午前8時前からは形や傷を見ながら選別作業。あっという間に昼だ。午後には水やりのほかに葉の剪定(せんてい)作業も待っている。

 水ナスは毎年11月から苗を育て始め、収穫は2月半ばから9月まで続いていく。ほかの野菜に比べてシーズンが長い。

 「忍耐力が要って、こつこつ努力すると報われるのが、野球と同じかなとも思います。頑張ってよいものを育てると、お客さんが『中出さんの水ナスはおいしい』と応援してくれます。やりがいは、大きいですよ」

 庸介さんは土作りにも力を入れている。魚介類を砕いた有機肥料を取り入れている。土壌検査を毎年欠かさず、栄養バランスに神経をつかっている。

 中出農園はこのところ大阪府などから「知事賞」「なにわ農業賞」「農の匠(たくみ)」に次々と選ばれた。躍進を支えるのが「6次産業化」という。次回は収穫後の、その取り組みを紹介する。

    ◇

 食い倒れのまち大阪の近郊では、きめ細やかな食文化を支え、食通をうならせてきた数々の地場野菜が育てられています。そのうちいくつかが、「なにわの伝統野菜」として認証され、注目を集めてもいます。

 天野剛志記者(地域報道部)が連載を担当し、大阪の野菜づくりの現場を歩きます。

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