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「先生、わたしいつ治りますか? 先生、この病気は治りますよね」

(認知症と診断された父の言葉)

 博学で本好き。

 そして、心配性で怖がりやだった父。

 本や説明書などの大切なところには、マーカーで線を引く癖があった父。

 あまりの忘れ物の多さに、母がおかしいと気がついて、父は脳ドックを受けた。前頭側頭型の認知症だった。診断が下った時、ショックを受けたかと思ったが、既に理解できなくなっていたようで、あのビビリの父が淡々としていたと悲しそうに言っていた母。

 しかし、症状が進んで入院した後、本棚や押し入れを整理していたら、たくさん認知症の本が出てきた。マーカーが多くの箇所に引いてあった。恐怖の中、なんとか読んではマーカーを引いてを繰り返していたかと思うと、なんとも言えない哀(かな)しみを感じた。

 父の介護中の言葉で一番忘れられないのは、母から聞いたあの父の心からの叫びの声だ。

 通っていた病院で担当医に「先生、わたしいつ治りますか?」「先生、この病気は治りますよね」と、抑揚のない大きな声で繰り返し質問しているのが、診察室の外で待つ母に聞こえてきたらしい。

 自分が自分でなくなる恐怖の中、認知症の本を読んではマーカーを引いて先生に治るかと聞いている父は、怖がりなビビリなあの父まんまだったのだ。

 父が亡くなって2年。時間が経つにつれ、あの時の父に寄り添って、少しでも恐怖感を和らげてあげればよかったと思ってしまう。

◆神戸市 円尾映子さん

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 朝日新聞文化くらし報道部「介護 あのとき、あの言葉」係

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