[PR]

 米アップルは毎年6月に、年次開発者会議「WWDC」を開催しています。今年もサンフランシスコで6月13日(現地時間)からスタートしました(写真1)。基調講演については、例年使われていたモスコーンセンターからビル・グラハム市民講堂へと移りましたが、アップルが伝えたいことは変わりません。それは「開発者へのサポート」です。ハードウェアの進化が少なくなった、と言われる昨今ですが、逆にいえば、ソフトやサービスの与える影響は大きくなっている、と言えます。

 結論からいえば、今年は新しいハードウェアも、見たこともない新機能群もない年でした。それをつまらない、というのは簡単なのですが、今の状況は少し違う、と筆者は考えます。逆に、アップルが手がける「Siri」などの先進技術が開発者からも使えるよう環境が整備されたため、そこから生まれるアプリの可能性は、昨年以上に大きなものになった、と言えます。

 アップルが「四つのOS」に託す戦略を分析してみます。(ライター・西田宗千佳)

開発者をひきつけてプラットフォームの価値を拡大

 アップルのティム・クックCEO(写真2)は、基調講演の冒頭でこう言いました。

 「我々にとっての北極星は、なにも変わらない。素晴らしい製品の力で、人々の生活を変えていくことだ」

 そのためには、アップルの能力だけでは不足です。アップルのプラットフォームの上で優秀なアプリケーションを開発してくれる開発者が必要です。WWDCに先立ち、アップルは、一部の記者への取材に答える形で、アプリ配信のルールを変える、と発表しました。

 特に大きいのは、これまで「開発者70%、アップル30%」と固定だった、アプリケーション販売収入の取り分を、場合によっては「開発者85%、アップル15%」のように変化させる、というものです。これは、アプリ開発者のモチベーションを上げるためにも必要なことです。しかしWWDCでは、より技術にフォーカスし、新しい方針を発表した、ということになります。

 アップルは現在、四つのOSを製品に活用しています。そのうち三つがiOSをベースにしたもので、残りがマック用OSです。基調講演は、これらを順に説明していく形で進みました。

 なお、各新OSの一般公開時期は、すべて「今秋」です。おそらく時期は少しずつずれるのでしょうが、多くのアップル製品で、新OSへのアップデートが行われます。費用はもちろん無料です。同様に7月から公開ベータテストも始まり、一足早く新OSを使う機会がやってきますが、不具合も考えられるため、技術面で自信がない方にはおすすめしません。

Apple Watch向けOSは「快適さ」を大幅拡充

 まず最初に紹介されたのは、Apple Watch用の「watchOS」です。Apple Watchは注目されているものの、業界が期待するほどの大ヒットにはなっていないのが実情です。その背景にあるのは、Apple Watch向けのアプリにキラーなものが出ていないこと、アプリの動作や呼び出し操作が遅く、使う上でストレスがたまることだと筆者は考えます。

 アップルは、次期バージョンであるwatchOS3でそこに手を入れます。起動速度は一気に7倍になり、iPhoneなどと変わらないレベルになりました。これで、よく使うアプリを呼び出す時でもストレスがなくなり、いろいろな機能を試す意欲が高まります。また、watchOS2までは、「デジタルクラウン」などの操作系、活動量計・心拍センサーなどを開発者がアプリで使うことに制限が多く、開発の自由度が低い、と開発者からは非難されていました。watchOS3ではそこも改善されるため、よりユニークで実用的なアプリの登場は期待できます。

 アップルからの提案として面白いのは、「深呼吸」のタイミングを知らせてくれる「Breathe」という機能が搭載されたことです(写真3)。今のiOSでも、健康に配慮して1時間に一度「立ち上がるように」提案されますが、同じような提案として「深呼吸」も出てくるわけです。同時に心拍数も計測するため、効果の確認もできます。

 Apple TV用のtvOSでは、ホームシアターなどの暗いところで使う時のための「ダークモード」搭載と、「シングルサインオン」機能の搭載です。特にシングルサインオンは、動画サービスなどで、スマホやウェブとのアカウント連携が多いtvOSの場合、非常に設定が楽になり、有用なものです。

マック用OSの名称が「macOS」に

 マック用OSは、これまで「OS X」と呼ばれてきました。その前は「Mac OS X」でした。ソフトウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのエディー・キュー氏は、「マックだけOSのネーミングルールが違う」と言い、新しいOSの名前を紹介しました。新しいマック用OSの名称は「macOS」。新バージョンは「macOS Sierra」になります(写真4)。

 macOS Sierraの大きな変更の中でも目立つのは、iOS機器との連携機能です。これまでも、iPhoneで着信した電話やメッセージは、他のiOS機器と連携していましたが、macOS Sierraからはその幅がさらに広がります。自分のApple Watchをつけてマックを使う時には、自分のマックを使い始める際のパスワード認証を「パス」し、すぐに使えるようになっています。また、iOS機器で「コピー」した内容を、機器の壁を越えてマック側に「ペースト」できるようになる、「Universal Clipboard」という機能も便利そうです。

 しかし、それ以上に本質的な連携となるのが決済機能「Apple Pay」がマックでもつかえるようになることです。といっても、写真5のようになるのではありません。ウェブの一般的な決済でApple Payが使えるようになるのですが、その際には、iPhoneを経由して決済できるようになるのです(写真6)。この場合、サービス側にクレジットカード番号などの個人情報を記録する必要がありませんし、iPhoneがないと決済ができないため、なりすましも困難です。これは、ネット通販の安全性を高める上では重要な機能と言えます。残念ながら日本ではApple Payがサービス開始前であるため、しばらくは我々にとっては価値がないのが残念ところです。

 こうしたやり方をアップルが推進するのは、「便利になる」「安全になる」ことに加え、「アップル製品の利用者が他のアップル製品をさらに使う」よう促進し、長期的で深い関係を構築するためです。ある種の囲い込みなのですが、一体化することが体験を高めるには有利であるため、一概に否定できるものではありません。

「クラウド」と「人工知能」をアップルも積極活用

 アップルの方針として注目すべきなのは、クラウドサービスと「人工知能」の活用です。

 macOS Sierraでは、内蔵ストレージの空きを多くする機能が搭載されます。これは、古いファイルや古いメールの添付ファイル、見終わった映画のデータなど、「すぐには使わない」ファイルをシステム内から見つけ出して削除し、空きスペースを確保するものです。ただし、単純に削除すると問題なので、それらのファイルを、アップルのクラウドサービスであるiCloudに転送、その後に削除します。

 アップルが示した例では、250GBのうち20GBしか空きのないドライブが、150GBの空きにまで広がっています。これはもちろん、アップルのクラウドと連携しているからできることですが、クラウド側にデータを転送するため、そのための時間と回線使用料に注意する必要があります。

 人工知能といえば、アップルはすでにiOSで「Siri」という音声入力型の人工知能を使っています。こちらは、次のmacOSから、iOSだけでなくmacOSにも対応し、ファイルを探すなどのアシスタントとして使えます(写真7)。

 今秋の新バージョンから、Si…

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

この記事は有料会員記事有料会員記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

こんなニュースも