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 「あれは捕れただろ?」

 「いや~、厳しいよ」

 練習を終えた選手らがスパイクやグローブを磨きながら、反省点を語り合う。時には言いにくいような失敗や欠点にもふれる。並木学院(広島市中区)野球部では、おなじみの風景だ。

 「いい意味で遠慮しなくなった」と、主将の吉沖虹弥(こうや)君(17)は手入れをしながら生まれたコミュニケーションの効果を語った。

 手入れされる用具の中には、部員8人が履くおそろいの真っ赤なシューズがある。選手らにとって、こうした時間を作るきっかけとなった、思い出の品だ。

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 野球部では2008年の創部以来、年末のアルバイトが恒例となっている。当時の監督が部員に社会経験を積ませようとしたのが目的だったが、みんなで稼いだお金で野球用具を充実させるという利点もあった。

 今の2、3年生も昨年末、食品工場で年越しそばをパック詰めした。エプロンとマスク姿で具材を載せたり、段ボールを運んだり。5日間働いて、1人2万~3万円を得た。

 市川智浩監督(31)による「サプライズ」があったのは、今年4月だった。

 「走る練習が多いから、これを履いて、しっかり取り組んでほしい」

 アルバイトをした8人に、広島カープを連想させる赤いランニングシューズが手渡された。以前に部員の足のサイズを市川監督が聞き取っていたことから吉沖君は何となく予期していたが、シューズは思っていたより上等なものだった。

 今まで親に買ってもらっていた吉沖君にとって、働いたお金で得た、初めての野球用具だ。スパイクに履き替える時は布製の袋にしまったり、きれいに磨いたり。捕手の荒上(あらがみ)大雅(たいが)君(17)は、「遠征に行った時、みんなが同じのを履いていると一体感を強く感じる」という。

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 ある日、吉沖君が「道具、磨いて帰ろうかな」と言い出すと「じゃあ、俺も」とほかの部員も残るように。シューズなど個人のものだけではなく、ボールやヘルメット、共有のバットも磨くようになった。

 朝日新聞が今夏の大会に出場する94校の監督にアンケートしたところ、昔に比べ今の球児たちが「道具を大事にしなくなった」という回答が複数あった。市川監督は「身の回りが乱れていると、野球にもそれが表れる。ものを大事にすることで、何かを感じてくれたと思う」と話した。

 効果はプレーにも出始めた。それまでは試合や練習中に声を出すのは特定の選手だったが、今は全員で声を出すように。吉沖君は「一体感が芽生えた。今では家族みたいです」。このチームワークを武器に、夏に挑む。