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 「いえ君の事をいうんじゃないよ。あの迷亭君がおったもんだから、そう立ち入った事を聞く訳にも行かなかったので残念だったから、もう一遍僕に行ってよく聞いて来てくれないかって頼まれたものだからね。僕も今までこんな世話はした事はないが、もし当人同士が嫌(い)やでないなら中へ立って纏(まと)めるのも、決して悪い事はないからね――それでやって来たのさ」

 「御苦労様」と主人は冷淡に答えたが、腹の内では当人同士という語(ことば)を聞いて、どういう訳か分らんが、ちょっと心を動かしたのである。蒸し熱い夏の夜(よ)に一縷(いちる)の冷風が袖口を潜(くぐ)ったような気分になる。元来この主人はぶっ切ら棒の、頑固光沢消(つやけ)しを旨(むね)として製造された男であるが、去ればといって冷酷不人情な文明の産物とは自(おのず)からその撰を異にしている。彼が何ぞというと、むかっ腹をたててぷんぷんするのでも這裏(しゃり)の消息は会得できる。先日鼻と喧嘩をしたのは鼻が気に食わぬからで鼻の娘には何の罪もない話しである。実業家は嫌いだから、実業家の片割れなる金田某も嫌(きらい)に相違ないがこれも娘その人とは没交渉の沙汰といわねばならぬ。娘には恩も恨みもなくて、寒月は自分が実の弟よりも愛している門下生である。もし鈴木君のいう如く、当人同志が好いた仲なら、間接にもこれを妨害するのは君子の為(な)すべき所作でない。――苦沙弥先生はこれでも自分を君子と思っている。――もし当人同志が好いているなら――しかしそれが問題である。この事件に対して自己の態度を改めるには、先ずその真相から確めなければならん。

 「君その娘は寒月の所へ来たが…

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