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 「猫」の一章に、苦沙弥が「水彩絵具(えのぐ)と毛筆とワットマン」を買い込んで、しきりに絵を描くシーンがある。「猫」を書く前後、漱石も門下生の橋口貢や寺田寅彦らに、水彩の自筆絵はがきを40通近く書き送っていた。ワットマン紙は近年生産中止となったが、明治30年代から、愛好家に親しまれた。「三四郎」では、水彩画を描く野々宮よし子は、ただ「好きだから描(か)きます」と言う。洋画家三宅克己(こっき)による入門書などが出版されていたのに、黒色の絵の具や水の使い方に慣れずに、作品を台無しにしてしまう。

 三章で、寒月のことを偵察する金田夫人に、苦沙弥は、寒月の描いた絵はがきを、「三、四十枚」見せる。浮かれた狸(たぬき)、羽衣を着た天女はそれぞれ自筆の1枚だが、帆懸(ほか)け舟の図は印刷されたもので、「活版」とあるが、実際は多くは石版印刷だ。大河の帆懸け舟は、好まれた素材らしく、日本葉書(はがき)会が発行した大下藤次郎の美術絵はがきにもある。俳句や文章を添えるのは、画に賛をする意識に近く、自然になされたようだ。

 寒月のモデルとされる寺田寅彦…

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