【動画】杉野希妃さんと切通理作さんが、家族らの被爆体験を語り継ぐことについて語り合った=野崎健太撮影
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 国際平和シンポジウム「核兵器廃絶への道~オバマ時代から未来へ~」が7月30日、長崎市の長崎ブリックホール国際会議場であった。オバマ米大統領が強い決意を示しながらもなお、困難に突き当たった「核なき世界」の実現。今後、どのように歩みを進めればよいのか。(主催は長崎市、長崎平和推進協会、朝日新聞社。討論のコーディネーターは元朝日新聞論説副主幹の吉田文彦さん)

プルトニウム、テロに懸念 基調講演ロバート・ガルーチさん

 オバマ米大統領が5月に広島を訪問したことで、核兵器廃絶への期待が高まり、目標として掲げられるのは当然だ。しかし、この問題に長年携わってきた専門家の目には、あまりにも単純化されていると映る。核兵器と国家安全保障の問題はもっと複雑だからだ。

 オバマ氏は、プラハや広島の演説で示した「核兵器のない世界」というビジョンを、確固たる米国の政策にしようとしてきた。しかし現実には、30年で1兆ドル(約100兆円)の費用をかけて核兵器を近代化しようとしているのだ。

 「核ゼロ」を目標に掲げるのはたやすい。しかし、実際にそうすることが国の安全につながるだろうか。むしろ大統領が核兵器を使いやすくしたほうが抑止力が高まり、実際に核兵器を使う可能性は減るかもしれない。米国が「核の傘」を差し掛ける日本などの同盟国にまで話を広げると、問題はより複雑だ。核が使われるリスクを管理して、それをどう減らすかを考えることが重要だろう。

 一方、冷戦後に台頭した非国家主体には、こうした抑止の考え方は効かない。即席の「核爆弾」のつくり方は、もはや秘密ではない。米国では、「イスラム国」(IS)などのテロ組織や米国育ちの「ホームグロウンテロリスト」が核物質を入手して、米国の都市へのテロを起こすことは避けられないという人がいる。日本でもオウム真理教がサリンによるテロを起こし、「核爆弾」の保有を夢見たことがあった。

 「核爆弾」の材料となりうる高濃縮ウランとプルトニウムのうち、ウランについてはオバマ氏が主導した核保安サミットなどで管理が進んだが、プルトニウムについては懸念が大きい。原子力発電や核燃料サイクル計画を推進してきた日本にも深く関わっている。

 長崎に落とされた原爆の材料は、たった6キロのプルトニウムだった。青森県六ケ所村の核燃料再処理工場が稼働すれば、年間8千キロものプルトニウムが生み出される。小さな過ちが重大な結果を招きかねない。

 中国にも六ケ所村のような再処理施設をフランスから導入する計画があり、韓国も再処理を米国に認めさせようとしている。再処理で生まれたプルトニウムを自前の核兵器開発につなげる可能性を日中韓とも捨てていない。これは日本だけではなく、北東アジア、そして世界全体の安全保障問題だとの認識が必要だ。

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 ロバート・ガルーチさん 元米国務次官補(政治・軍事担当)。ジョージタウン大外交大学院元学長。米クリントン政権の北朝鮮核問題担当大使として、北朝鮮の核開発を凍結させた1994年の米朝枠組み合意をまとめた。大量破壊兵器などに関する特使も務めた。

子や孫へ、被爆体験を語り継ぐには

 子や孫世代は被爆体験をどう語り継ぐのか。俳優で映画監督の杉野希妃(きき)さん(32)と文化批評家の切通(きりどおし)理作さん(52)。身近な家族に被爆者がいるふたりが「歴史を消さないために」をテーマに語りあった。司会はフリーアナウンサーの東島真奈美さんが務めた。

祖母の体験、初めて聞き驚く 杉野さん

 杉野さんには広島で被爆した祖母がいる。「深い傷を負っているから絶対に話したがらない。聞かないで」と父に言われてきた。

 だが、「聞かずに戦後70年を迎えられなかった」。2014年末に祖母に話を切り出した。祖母の兄のお嫁さんが原爆投下後に行方知れずになったこと、祖母は疎開先から広島に入った時に被爆したこと……。初めて知る事実に驚いた。

 「親友の髪の毛がどんどん抜けるのを祖母は見ている。語りながらつらい感じもあった。話してくれるのを待ち、ゆっくり時間をかけて聞いていったんです」

 切通さんは、長崎で被爆した母狩野美智子さん(86)の被爆体験を聞き、1年かけて出版した。

 「(福島の原発事故を受けて)被爆者なのに被曝(ひばく)への警戒を怠っていたのではないか、原発を認めてきた責任があるんじゃないか。母は、そうした思いを80歳をすぎてブログで発信し始めました」

 ある脚本家に「戦争を体験した人の話は貴重。本を出し、届ける価値がある」と励まされた。ネットで資金調達を呼びかけるクラウドファンディングを活用した。親の戦争体験を聞けなかったと悔やむ人から応援があったという。

 客席で対談を聞いた狩野さんは最後に紹介され、会場に向けてこう語った。「息子が話を聞いてくれるので言いやすい。聞くのがかわいそうだから(被爆体験を)聞かない、というのがネック。聞いて欲しいんです、本当は」

「生きていていい」伝える力 切通さん

 話題は映画にも広がった。杉野さんは福島の原発事故後に、放射能の影響におびえて翻弄(ほんろう)される東京の二つの家族を映画「おだやかな日常」に表現した。

 「事故後の1年間は本音を言えない感覚があった。放射能が怖いって言ってはいけない気がするし、原発に対する考えも話すことすら咎(とが)められる空気があって、感情を押し殺したようでした」と振り返る。

 切通さんは原爆が落とされた長崎を舞台にした山田洋次監督の映画「母と暮(くら)せば」を狩野さんと見た。その夜、母が泣いたという。

 「亡くなった人の霊が生き残った人に会いに来る。『生きていていいんだよ。新しい人生を歩んでいいんだよ』と伝わる。母は80歳すぎまで生きてきて『生きていていいと、誰も言ってくれなかった』と泣いた。映画の力を感じました」

 切通さんは「ゴジラ」に描かれた原爆観についても話した。水爆実験で目覚めたゴジラが倒され、米国が今後核実験をやめることが示唆される原作の草稿の結末が、映画では変更され、「核実験を続ける限り、同類が必ず現れる」との予言で終わる。

 オバマ大統領の広島訪問と重ねて「核ボタンを持って来ているわけですよね。核を手放していない」と語り、一度手にした核を廃絶する難しさも指摘した。

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 杉野希妃さん(32) 俳優・映画監督。1984年、広島市生まれ。プロデュースと主演を務めた「歓待」(10年)で高い評価を得る。「欲動」(14年)は釜山国際映画祭で新人監督賞。監督で主演の「雪女」は来春公開予定。祖母が広島の被爆者。

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 切通理作さん(52) 文化批評家。1964年、東京生まれ。「宮崎駿の〈世界〉」でサントリー学芸賞。長崎で被爆した母親の狩野美智子さんとの対談を収めた「15歳の被爆者 歴史を消さないために」(彩流社)をこの夏、刊行した。

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 〈オバマ大統領の広島訪問〉 5月27日、現職の米大統領として初めて被爆地を訪問。原爆資料館を見学し、原爆死没者慰霊碑に献花、黙禱(もくとう)した。招待された被爆者とも言葉を交わした。演説では「核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」と述べ、「いつかヒバクシャの声が聞けなくなる日がくるだろう。しかし1945年8月6日の記憶を薄れさせてはならない」と訴えた。各国が保有する核兵器の総数は1万5千発余り。

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