論説委員・山本秀明
リオデジャネイロ市から飛行機を乗り継いで北へ約2時間。降り立った町並みに、五輪を祝う装飾は見あたらなかった。
ミナスジェライス州のイパチンガ市は、ブラジル初開催となる五輪の聖火リレーを辞退した町だ。
市役所へ向かった。ルシオ・ヘイス広報局長が「やりたかったけれどお金がなかった」と話した。
5月中旬に市内の3・8キロをリレーでつなぐ計画を立てていた。約25万人の市民が聖火を身近に感じれば、「何か新しいものが生まれる」と期待した。
ところが聖火リレーを呼ぶには、市が18万レアル(約560万円)の運営費を捻出しなければならなかった。
製鉄で栄えた市の財政は今、火の車だ。昨年は市の税収が約10%減った。12月に支払うはずだった市職員らへのボーナスは、この6月まで手当てできなかった。教育も医療も、お金が足りない。
市の幹部が顔を突き合わせ、何度も会議を開いた末の決断だった。市民生活に当面必要なお金を残すことで、聖火が映し出す未来への期待やお祭りムードを犠牲にした。
市役所近くの通りで、楽器店に勤めるパブロ・マギノさん(19)が店の外に座って休んでいた。「町が沈んでいるのにリレーなんかいらない」と言った。警察官のビラス・ホアスさん(35)は「金がかかる五輪そのものがいらない」と強い口調だ。
一方、無職のアポリナリオ・フェヘイラさん(82)は「隣町にも聖火リレーが来たのに、なぜうちには来ないのか。五輪はいいものだ。レガシー(遺産)も残される」と市を批判した。
ブラジルは今でこそ経済が低迷しているが、近年、教育や福祉の充実を求める中間層が厚みを増した。「ブラジル人の50%が五輪の開催に反対している」。ブラジルの有力紙は7月、世論調査の結果を報じた。
■東京五輪、被災地の…
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